「いつまでも幸せに暮らしました」幻想には危険がいっぱい~おとぎ話とヒップホップにおける永遠の愛

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新しい永遠の愛「ライド・オア・ダイ」

 さて、おとぎ話ふうの「ずっと幸せに暮らしました」幻想がだんだん古くさくなっている中、人気を博している「永遠の愛」の表現が「ライド・オア・ダイ・チック」(Ride-or-Die Chick)です。ヒップホップ文化から出てきた表現ですが、それだけにとどまるものではありません。

 「ライド・オア・ダイ」は、文字通りにはライド・アウト(ride out)とダイ・トライング(die trying)、つまり乗り越えるか挑戦して死ぬか、という意味です。ライド・オア・ダイ・チックはこうした態度で男を愛する女のことを言います。ライド・オア・ダイ・チックは何があっても無条件で相手の男を愛し、犯罪などの危険なことに携わっているとしても恋人を助け、刑務所に入ったり死んだりするようなリスクも厭いません。似たような表現で「ダウン・アス・ビッチ」(Down Ass Bitch)というのも同じように使われます。

 1999年にロックスがラッパーのイヴとコラボして出した「ライド・オア・ダイ、チック」(別名「ライド・オア・ダイ、ビッチ」)、及び2001年から2002年にかけてジャ・ルールがチャーリー・ボルティモアとコラボして出した「ダウン・アス・チック」(別名「ダウン・アス・ビッチ」)という曲は、ライド・オア・ダイの美学を明確に歌い上げたヒップホップとされています(Almeen-Shavers, p. 198)。

 セクシーで勇気があり、1人の男に誠実な情熱を捧げるライド・オア・ダイ・チックは、「ヒップホップ世代の理想の女性像」(Lindsey, p. 95)です。こうしたライド・オア・ダイのカップルのアイコンとしては伝説の犯罪者カップル、ボニーとクライドがおり、ヒップホップのラブソングにはしばしばこの2人が登場します(Phillips, et al., p. 270)。

 ライド・オア・ダイ・チックはヒップホップ文化から生まれてきた女性像で、激しい人種差別や貧困を背景としているため、フェアリーテール・ウェディングの前に開けている穏やかな生活のヴィジョンとは無縁です。ライド・オア・ダイ・チックと彼女が選ぶ男の前には苦難が待っていますが、この2人は永遠の愛で結ばれ、死ぬまで一緒なので、ある意味では「いつまでも幸せに暮らしました」の変形でもあります。シビアな現実から生まれたのに、妙に理想化された異性愛を描いているのですね。

 面白いことに、外から見るとむしろおとぎ話のロイヤルカップルのように見える男女が最近、このライド・オア・ダイという言葉を使って形容されることがあります。例えばビヨンセとジェイ・Zはまさに女王と王というのがふさわしいようなパワーカップルですが、2014年に結婚の誓いを新たにした時「ライド・オア・ダイ」のカップルだと言われました。ちなみにこの二人は「03 ボニー&クライド」という曲で初めて共演しており、この曲もライド・オア・ダイ美学の代表曲と言われています(Pough, p. 189)。

 最近はこうしたライド・オア・ダイの理想化がヒップホップの外にまで広がっており、たとえばマルーン5のヴォーカルであるアダム・レヴィーンについて、妻のベハティ・プリンスルーが7月20日に「私のライド・オア・ダイ」だというコメントをつけてインスタグラムに夫の写真をアップしました。アダムとベハティもまるでおとぎ話みたいな美男美女なのですが、ストリート風のワイルドな表現で自分たちの愛を表しています。穏やかな幸せに包まれたフェアリーテール・ウェディングのカップルよりも、トラブルにあっても愛を貫くライド・オア・ダイのほうが、現代のカップルにふさわしいと思われているのかもしれません。

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