「いつまでも幸せに暮らしました」幻想には危険がいっぱい~おとぎ話とヒップホップにおける永遠の愛

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人生はおとぎ話みたいにはならない

 しかしながら、一見情熱的で男女が助け合う関係を理想としているように見えるライド・オア・ダイの美学には罠がひそんでいます。ヒップホップの文脈におけるライド・オア・ダイ・チックは人種差別への反逆などポジティヴな部分が評価されることもありますが、一方で男性のファンタジーに従属した女性像だと批判されることもあります(Lindsey, p. 92–93)。ライド・オア・ダイ・チックは身も心も1人の男に捧げており、愛情生活以外に選択肢を持っていません。描き方によっては非常に男性に都合の良い女性です。

 ライド・オア・ダイ・チックは映画にもよく登場するステレオタイプで、『スーイサイド・スクワッド』のハーレイ・クィン(マーゴット・ロビー)や『ワイルド・スピード』シリーズのレティ(ミシェル・ロドリゲス)の名前がよくあげられます。最近公開されたエドガー・ライト監督の映画『ベイビー・ドライバー』に出てくるデボラ(リリー・ジェームズ)なんかはこの典型例で、作中でボニーに喩えられたりもします。デボラは会ったばかりのベイビー(アンセル・エルゴート)を愛し、目の前で人を殺したベイビーにひるまずついていき(車に乗るのが大きなモチーフの映画なので、まさにライド・オア・ダイです)、一緒に警察から逃げようとします。ベイビーが収監されると律儀に出所を待ち続けます。物凄くステレオタイプなライド・オア・ダイ・チックですね。

 新しい「永遠の愛」像を提示しているように見えるライド・オア・ダイのカップル像ですが、結局は女性が男性に全身全霊で尽くすという、昔ながらの異性愛に関する社会的規範に従っているところがあります。女性向けのデートアドバイス記事などでは、永遠の愛の幻想に目がくらみ、トラブルに巻き込まれて人生を台無しにすることがないよう、ライド・オア・ダイ・チックになるのはやめましょうという内容のコラムなども時々見受けられます。

 私は思わぬところでおとぎ話風の理想のカップルに憧れていたことがわかりましたが、それがわかった今、これからはうっかり別の理想を求めてライド・オア・ダイ・チックになったりしないよう、気をつけようと思います。皆さんの中にもおとぎ話のカップルや、ライド・オア・ダイへの憧れがあったりしますか? もしそうなら、ディズニーや『ワイルド・スピード』を見て楽しむ程度にしておいたほうがいいかもしれません。実際の人生はそうはうまくいかないものですから……。

参考文献

※英語記事からの日本語訳は全て拙訳です。

Antwanisha Alameen-Shavers, ‘The “Down Ass Bitch” in the Reality Television Show Love and Hip Hop: The Image of the Enduring Black Woman and Her Unwavering Support of the Black Man’, Donnetrice C. Allison, ed., Black Women’s Portrayals on Reality Television: The New Sapphire (Rowman & Littlefield, 2016), 191–212.

Lindsey, Treva B., ‘If You Look in My Life: Love, Hip-Hop Soul, and Contemporary African American Womanhood’, African American Review 46.1 (2013): 87–99.

Layli Phillips, Kerri Reddick-Morgan, and Dionne Patricia Stephens, ‘Oppositional Consciousness within an Oppositional Realm: The Case of Feminism and Womanism in Rap and Hip Hop, 1976-2004’, The Journal of African American History 90. 3 (2005): 253–277.

Gwendolyn D. Pough, Check it While I Wreck it: Black Womanhood, Hip-hop Culture, and the Public Sphere (Norther University Press, 2004).

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