父になりきれないアイアンマンと、父になりすぎたヒールの狭間で成長するスパイダーマン/『スパイダーマン ホームカミング』

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 現在公開中の『スパイダーマン ホームカミング』では、ここまで見てきたサム・ライミ版マーク・ウェブとは明らかな違いがありました。

 それは、人がほとんど死なないということ。ベンおじさんの死すら物語では直接、描かれてはいません。また、ほかのスパイダーマンシリーズでは、ヴィラン(悪役)の多くが、細胞になんらかの刺激が加えられて、人間以外の能力を持った何者かになってしまうという話がほとんどでしたが、『ホムカミ』のヴィランであるヴァルチャーは、細胞には何も加えられていないということも、今までのシリーズとの違いです。

 ヴァルチャーのスーツは、宇宙人との闘い(『アベンジャーズ』の敵・チタウリ)で出た宇宙船の残骸などと地球の技術を組み合わせて作られているので、その機能は現実を超えていますが、ヴァルチャー自身は、常に人間らしい性質を保っています。歴代シリーズに出てきたヴィランのように、遺伝子操作された電気ウナギと融合したりとか、実験に巻き込まれて肉体を砂に変えられるようになったり、タコのようなアームが自身の脊髄の神経に接続されてしまって……というように、人間の体が何かしらの変化をしているというものではありません。

 それはスパイダーマンでも同じです。今回、スパイダーマンはクモに噛まれて遺伝子になんらかの変化が起きたことを直接的に描くシーンもありません(セリフにはあるので噛まれて肉体が変化したことは明らかなのですが)し、スパイダーウェブ(クモの糸のようなもの)も、体から直接出るものではなく、糸の素を補給して、体の外に装着している機械から出すことになっていました(もっとも、原作ではずっとそうだったけれど、サム・ライミ版で体から出る仕様になって変わったそうです)。

 遺伝子が組み替えられたり、心が何かに支配されることがないので、ヴァルチャーは正気を失ってしまったり、悪意が増幅したりはしないのです。そのため、ヴァルチャーはずっと行動の原理がはっきりしていました。それは家族を食わせる、ということです。

 実は、ヴァルチャー(通常はトゥームスという名前で生きています)の会社は、市から宇宙ゴミ処理の仕事を請け負っていましたが、トニー・スターク(アイアンマン)の会社と行政が宇宙ゴミの処理を受け持ったことによって、仕事を失ったという過去がありました。しかし、ヴァルチャーはそのことで安易にトニーの会社を恨んで復讐を行うこともなく、政府やアベンジャーズに目をつけられないように、とにかく家族のために事業を続けてきました。ところが、今では宇宙ゴミを盗み、それを使って武器を作り、儲けるという危険すぎる稼業に身を落としていました。それはかつて、トニー・スタークがしてきたこと(人の命を奪う武器を作っていたこと)とも重なるのです。

 スパイダーマンは、そんなヴァルチャーの動きを阻止しようとしますが、その最中に意外な事実を知ってしまいます。

【ここからネタバレ含みます】

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