武井咲の妊娠を「迷惑」扱いするマタハラ報道が「常識」なら、働きにくく産みづらい社会は変わらない

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たった数カ月の休業で「すべて白紙に」?

 そもそもの話ですが、「突然の引退ですべての契約が無効化する」わけでもないのに、仕事関係者が右往左往しているというのが妙です。無事に出産を終えれば、来年7月か10月には戻ってくるというのに、様々な企画が「見直し」「白紙に戻さなければならない」ものでしょうか?

 結婚・妊娠・出産によって彼女のタレントイメージが変化することは事実かもしれません。“フレッシュな新人女性”“ウブな女性”といったイメージは視聴者が持ちづらくなるのでしょう。しかし女優が私生活で母親になったからといって、母親の役を演じなければならない決まりはありません。妊娠・出産の「前」と「後」とで、仕事内容をガラッと変える必要はないはずです。

 いわゆる産前産後休暇および育児休業と同じように、復職後も以前同様にお仕事をこなしていけば良いのではないでしょうか。ただし武井さんの「以前」のスケジュールがあまりに時間的余裕のないものだったということもあり、家族を築きながら「以前」とまったく同じペースで働くことが可能かどうかは微妙なところです。とはいえ、ペースは落としても、仕事内容までガラリと変化させることはありませんし、まして復帰予定時期も明確なのに白紙化する理由があるのでしょうか。

 実際は冷静な判断で処理していける問題なのに、メディア側の報道が、「武井咲の選択が広範囲に多大な迷惑をかけた」というイメージ先行になっているような気がしてなりません。

働く人の妊娠そのものが「迷惑」

 私的な話になりますが、私は妊娠がきっかけで、会社を退職せざるを得なくなりました。妊娠がわかった時点では、退職する気なんてさらさらなく、女性社員の多い職場で産休育休の取得実績のある会社だし、正社員だし、産休育休が「ムリ」なんてことはないだろうと考えていました。

 だから直属の女性上司(Aさん)に妊娠報告をし、彼女の反応が返ってくるその直前まで、自分がマタハラ被害を受けるとはまったく想像もしていなかったのです。彼女の答えは、まさかのNO。「産休も育休も、取得してもらうことはムリ」だとはっきり言われました。ほんの数年前のことです。

 特に私は、妊娠発覚時に「産むこと」は決めても、結婚するかどうかは決めかねていました(結局、しないことを選びました)。そのことも女性上司には理解してもらえず、「(産んで職場復帰したとしても)会社まで遠いでしょ」「実家が遠いでしょ(子供が病気になった時困るでしょ)」などと言われました。会社に在籍し未婚のままで出産し産休育休を取得する、というところまで話を進めようとしてくれず、暗に堕胎を勧める言葉も受け、大きなショックを受けました。

 もちろん芸能人と一般労働者は、仮に同じ「労働者」として括るとしても、全然働き方の種類が違います。けれど、武井咲さんの所属するプロダクションも女性タレントを大勢マネジメントしているのだから、当然、ライフステージに応じた対応を迫られるという点では同じです。これは妊娠・出産に関する場合であって、本質的には、男女関係ないことです。いつ何が起きてライフステージが変更になるかは誰にもわかりませんし、女性は妊娠・出産の可能性があることを雇用側から「リスク」扱いされますが、男性も育児や介護の可能性はありますし、転職、病気、事故などの確率は同じことだと思います。

 女性は会社等で「働かない」のが普通だった時代もあったかもしれません。実家で家事手伝いをする、花嫁修業と称してならいごとをする、就職するにしても単純業務に従事し結婚と同時に“寿退社”。つまり会社等で「働く」人は男性が多数で、その中に妊娠・出産をする立場の人はほぼ存在しません。その名残で、働く女性の妊娠・出産が会社や仕事相手にとって思いもしないイレギュラーな事象であり、「迷惑」なことだ、と認識してしまう人もまだいるのでしょう。

 女性が(あるいはカップルで)仕事が一段落したら妊娠・出産しよう……と計画して、折り合いをつけようとしても、現実にはなかなか難しいものです。「妊娠」や「避妊」は、当事者たちが望んだからといって必ずその通りになるものではありません。望んでもなかなか妊娠しなかったり、望んでいない時期なのに予想外に妊娠したり、完全に人為的コントロールを効かせることは難しいものです。また、仕事が一段落する時期を待っていたら、いつまでも出産のタイミングを決められないケースもあります。

 働くことは誰でも持つ当然の権利で、大半の人にとっては生活のために必要なことでもあります。けれども女性に限って、仕事していて妊娠すれば「迷惑、ワガママ、自分勝手」、結婚や出産で仕事を辞めれば「ずるい」「だから女に要職は任せられない」、辞めなければ「家族がかわいそう」、妊娠しないまま閉経したことを悔やもうものなら「自己責任」、こんなふうに責める声がどうしても聞こえてくるのです。気のせいでしょうか。武井咲さんの妊娠と仕事をめぐる一連の報道は、そうした声そのものだと私は思いました。

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