トランプ「DACA廃止!」はいかに残酷か~80万人の若者とアメリカの行方

文=堂本かおる
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永遠に解決できない移民問題

 アメリカにとって移民問題は永遠に解決できない問題だ。地球規模でみた場合、大国アメリカに富が集中し過ぎていることが理由だ。また、クーデターや紛争もなければ、独裁者による虐殺もない「治安のよい国」でもある。だからこそ世界中から移民、難民が押し寄せる。

 だが、すべての移民希望者を受け入れるとアメリカ自身がパンクする。そのため、アメリカは移民法による移民制限をもうけている。正式な手続きを踏んで各種のビザを申請してもアメリカが設定した条件に沿わない場合は却下される。2011年の9.11同時多発テロ以降はテロリストの入国を防ぐため、移民法はさらに厳しくなった。

 それでも移民は押し寄せる。ビザが取得できない不法移民も押し寄せる。メキシコはアメリカと3000kmにもおよぶ国境線を有しており、メキシコ以外の中南米人もメキシコ経由でどんどんやってくる。灼熱の砂漠を徒歩で横断する命がけのルートを使い、実際に途中で息絶える者もいる。カリブ海諸国からはボートでやってくる者たちがいる。これもシケにあってボートごと人知れず海中に沈むことがある。ほかの国々からは、とりあえずなんらかのビザを得て航空便で入国し、期限が切れたのちも留まる者たちが後を絶たない。祖国では仕事がない人々、あっても貧しさから逃れられない人々、政治的な理由から命すら脅かされる人々、またはアメリカに対して大きな夢を描いている人々が世界には無数にいるのだ。

子供の先生がドリーマーだったら?

 こうした理由でやってくる不法入国者がその腕に抱いて、もしくは手を引いて連れてきた赤ん坊や子供たちがドリーマーだ。現在、毎年約6.5万人のドリーマーが高校を卒業しているとするデータがある。オバマ元大統領はアメリカ育ちのドリーマーを出生国に送還するのは非人道的であるだけでなく、アメリカの税金で公教育を受けさせた若者たちであることから国策的にも損失であるとして、2012年6月にドリーマーを保護する法律を制定した。これがDACAだ。

 以下はDACA申請の主な条件。

・16歳未満で米国に入国
・2012年6月の時点で31歳未満(誕生日が1981年6月以後)
・高卒か、高卒資格試験合格者。または米軍退役者。もしくは就学中
・重罪歴のない者

 つまり未成年で自分の意思ではなく入国し、アメリカで教育を修め、真面目に暮らしている若者たちが対象だ。申請が通ると強制送還の対象から外れ、大学進学が容易になり、労働許可証が発行される。

 現在、約80万人がDACA保護下にある。すでに就職している若者も多い。先日、テキサス州ヒューストンを大型ハリケーン・ハーヴィが襲った際に活躍した救急隊員がドリーマーであることが大きく報じられた。オバマ元大統領も先の声明の中で以下のように語っている。

「もし、子供の科学の先生が、または気さくな近所の人が実はドリーマーだったとしたら? 私たちは彼女をどこに送るのだ? 彼女が知らない、もしくは覚えていない、言葉も話せない国へ?」

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