シリーズ累計25万部突破! 10年代ケータイ小説の金字塔、『溺愛』はいかにして生まれたか。

【この記事のキーワード】

「叩かれ耐性」がないと、テンプレは無視できない。

小池 それで書かれたのが『溺愛』だったわけですね。

WEZZYで初めてこの作品を知った方向けに解説させていただくと、『溺愛』は「双子の妹まりかの罠でレイプされ、彼氏・蓮の裏切り、そして家族からも捨てられた女子高生ゆいか。命を捨てようとしていたところを、奏と名のる闇組織の幹部に救われる(公式サイト紹介文より)」……というお話です。この作品は、「魔法のiらんど」の2014年間総合ランキングで1位を取って書籍化されました。編集部的にも、これは書籍化しないと、という作品だったわけですよね。

「魔法のiらんど」編集者(以下・編集者) そうですね。ぶっちぎりの首位でしたから。お声がけをした段階で、続編数巻分のストックもあったので、トントンと出させていただいた感じです。

小池 私も連載当時リアルタイムで読んでいましたが……「これはえらい作品が出てきたな」と思いました。

映画館 ふふ……。

小池 ケータイ小説において、「双子もの」自体は珍しくはなかったんですよね。双子の姉妹の片方がヒロインで、片方が腹黒キャラ。ヒロインは腹黒な姉妹のせいで不幸な目にあっているんだけど、ヒーローに見初められたことをきっかけに大逆転する。これ自体は一種の「テンプレ」で、ケータイ小説以外の少女向け小説・漫画にも散見される筋です。でも『溺愛』は強烈でした。とにかく、妹まりかの悪っぷりが半端じゃない(笑)。自分の欲望を満たすためなら誰が犯されようが殺されようがへっちゃらという……。一言でいえば極悪非道。

映画館 私、とにかく悪者が好きなんですよ。ヒーローより好きです。

小池 個人的には、『溺愛』以降、まりかのようなぶっとんだ極悪妹キャラが登場する物語が増えたように思います。多分、ユーザーが「ここまでやってもいいのか!」と気づいたんじゃないかと。

映画館 「双子ものは映画館が流行らせた」みたいに言う人はいますね。そんなことないんですけども。

編集者 これは明らかに『溺愛』に影響を受けているな、というお話はたくさん見ましたよ。

小池 なので私は、映画館さんのことを、ケータイ小説界における「悪のパイオニア」だと思っているんです。ずっとお聞きしてみたかったのですが、どうしてああいう、極端な悪役が書けるんでしょう?

映画館 うーんと、単純に私が、叩かれるのが平気なタイプだからじゃないですかね(笑)。

小池 叩かれる、というのは……。

映画館 ケータイ小説って、ユーザーの声がなんというか……パンチ効いてるんですよ。「こんなこと書くな!」とか、「ヒロインが嫌いだからもっとひどい目に合わせて!」とか、とにかく感情的な意見がきやすいんです。ユーザーの年齢層が低いせいでしょうね。テンプレすぎるとパクリだなんだって叩かれるけど、テンプレを大きく外れても「ありえない」と叩かれます。それで大抵の作家さんは、「ここまでやったら叩かれるんじゃないか」とか、「否定されるんじゃないか」とか怖くなっちゃうみたいなんです。だから、飄々と書き続ける忍耐力は必要ですね。叩かれて、連載を途中で終わらせてしまう作家さんはよく見ます。

小池 でも映画館さんは批判が平気だから、投稿を止めることはないと。

映画館 平気ですねえ。何を言われても「へー、盛り上がってるなあ」と思うくらい。2chのスレッドなんかもむしろ積極的に見ます。事実とあまりに違うことが書いてあって面白いねえって、友人の作家と笑ってますね。

小池 うーん、他人の意見に傷つかないメンタルタフネスが必要なわけですね……。そこで、「叩かれない」方向に作品を変えていく人も多いんでしょうね。

映画館 多いと思いますよ。読者の意見に合わせて書いているような作品は、見るとやっぱりわかります。でも、そういう作品ってあんまりパッとしないです。ケータイ小説ってたしかにテンプレな作品ばっかりなんですけど、「こういう作品がウケそう」っていう意識で書いてある作品はそれほどウケないみたいです。

テンプレって、言い換えれば「王道」でしょう。王道をふまえつつどれだけそれを無視できるか、自由に書けるかが大事なポイントだと思うんです。

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