シリーズ累計25万部突破! 10年代ケータイ小説の金字塔、『溺愛』はいかにして生まれたか。

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「出戻り」の多いケータイ小説。450代の読者も?

小池 映画館さんは、子育ての合間に小説を書き始めたんですよね。その後、お仕事に復帰されてからはいつ書かれていたんですか?

映画館 職場にスマホ用のキーボードを持って行って、昼休憩に書いてます。食堂みたいなところがあるので、10分で食事をすませて、あとはずっとカタカタと。

小池 映画館さんの仰る通り、読むのにも書くのにもそれほど肩肘張らなくていい、というところがケータイ小説の大きな特色だと思うんです。読み手にも書き手にも、映画館さんのような子育て世代は多いのかなと思うんですが……。

映画館 多いですよ。私の読者さんにも、私と同世代くらいの女性はたくさんいますし。そもそも私の小説が、ケータイ小説にしては読者の年齢層が高いということもあるでしょうけどね。

編集者 ケータイ小説ユーザーの上限年齢自体が、今はだいぶ上がっていますから。サイトでアンケートを取ると、どうしても小・中学生の回答が多くなるのでなかなかリアルな数字は取れないのですが、編集部から見ても2030代はとても多いですし、上は450代の方もいらっしゃいます。

映画館 ツイッターの反応を見ていると、「出戻り」の人が多いような印象を受けますよ。昔ケータイ小説が好きで、一旦離れたんだけど、やっぱりここが一番自分の好みに合ってたな、って戻ってくる。そしてそういう人は愛が深いので、もうなかなか離れないんですね。2chにずっと張り付いてる人たちも、要はそういう愛が激しすぎるタイプだと思います(笑)。

小池 ケータイ小説の世界こそが安住の地だ、と気づく人が少なからずいる。

編集者 小説投稿サイトもかなり増えて、それぞれに特色が確立されていますから。かつては、女性向けならなんでもかんでも「魔法のiらんど」だったのが、今はファンタジーなら「小説家になろう」(※3)、純愛路線だったら「野いちご」、という風に広がるわけですね。好きというか、一旦慣れたらそこにずっといる方が楽だ、という面もあるかもしれません。

(※3)国内最大級の小説投稿サイト。ファンタジーに分類される小説の人気が根強く、『魔法科高校の劣等生』『Re:ゼロから始める異世界生活』など、多数のヒット作を生んでいる。

小池 たしかに、今の「魔法のiらんど」の世界観は独特だから、他のネット小説投稿サイトや、ライトノベルでは代替がきかないところがあるかもしれませんね。小・中学生のときにこの世界観にハマって、そこに帰りたくなる人がいてもまったく不思議ではないです。

ちなみに、小学生のユーザーからの感想ってどんな内容なんですか?

映画館 うーん、「あんな風に愛されたいです」とか。ずいぶんませてますよね……。うちの娘なんかは恋愛への興味ゼロなんですけど。

編集者 ませてるというか、具体的には想像できていないんだと思いますよ。編集部にも「中学生になったら、素敵な不良の人と知り合って恋愛したいです!」なんて手紙が来て「やめときなさい」って思うことがありますが、彼女たちは実際の不良なんて見たことがないんでしょうし。

小池 うーん、やっぱり小学生くらいだと、まだ現実とフィクションの区別がつかない子もいるんですね……。

映画館 実際の不良はだいぶ残念ですからねえ。絶対見ない方がいい。

小池 ケータイ小説の中の不良やヤクザは、ダークな世界に身を置きながらもとにかくカッコいい、ヒロインをがっちり守ってくれるナイト的存在として描かれますからね。映画館さんが『溺愛』シリーズで書いたヒーロー、ヤクザの奏もまさにこのタイプでした。そういうヒーローが、「悪くないヒーロー」よりもむしろ人気なのが、ケータイ小説の特色でもあると思います。次回は、そのあたりについてもっと聞かせてください。
(取材・構成/小池みき)

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