ケータイ小説ユーザーは、地方在住、20~30代も多い 「空想ヤンキーもの」が女性の心をつかみ続ける理由。

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『支配者(上)』(KADOKAWA)

 ケータイ小説はすでに廃れていると誤解されがちですが、いまだ月間15PVをほこり、数ある大手ウェブサイトにまさるアクセス数を稼いでいます。以前、ケータイ小説の根強い人気を紹介する記事を執筆したところ、驚きの声とともに多くの方に高い関心を寄せていただきました。

月間15億PVを誇るケータイ小説サイトを「廃れた」と言えるのか
「切ナイ実話」はもう古い? ケータイ小説は「レイプ、妊娠、不治の病」から「暴走族、姫、溺愛」へ

 女性向け恋愛小説に欠かせないのが「徹底的にヒロインを愛し、守ってくれるヒーロー」の存在。そしてケータイ小説、特に「魔法のiらんど」で大人気のヒーロー像は、不良やヤクザなど、「圧倒的な力を持つ裏社会の男(ただしイケメン)」たちです。いつの時代も「ワルい男」には一定の人気がありますが、なぜこのような偏りが生まれるのでしょうか? シリーズ累計25万部突破の人気小説、『溺愛』の著者映画館さんへのインタビューを通して考察します。

シリーズ累計25万部突破! 10年代ケータイ小説の金字塔、『溺愛』はいかにして生まれたか。

「魔法のiらんど」でしか、「闇堕ちヒロイン」は書けなかった。

小池 映画館さんが「魔法のiらんど」で小説を書き始めたのは、そもそも読み専として、iらんど小説が一番好きだったからだったんですよね。それはつまり、iらんどが有している「テンプレ=王道」が、映画館さんの好みにとって重要なポイントを含んでいるということだと思います。それって、自分では何だと思いますか?

映画館 キャラクターたちが必ずしも「きれい」な性格だったり、経歴だったりしなくていいってことでしょうか。私の書く小説は悪役ありきだし、ヒロインが襲われたり闇堕ちしたりもするから。

小池 なるほど、そういう展開は、「野いちご」(※1)や「エブリスタ」(※2)だとちょっと合わない。

※1)スターツ出版株式会社が運営する小説投稿サイト。会員数は20161月時点で70万人(公式サイトより)で、「魔法のiらんど」の250万人(2017年時点)に次ぐ規模を持つ。
(※2)DeNANTTドコモとの共同出資企業、株式会社エブリスタが提供する、小説やコミックなどの投稿コミュニティサイト

映画館 いやあ……通報されるんじゃないですか(笑)。

小池 たしかに、iらんどにはダークヒーロー・ヒロインを受け入れる土壌がありますよね。それは、「表現が過激すぎる」という批判も少なくなかった『恋空』や『赤い糸』の時代から培われたものかもしれません。犯罪や暴力も、もちろん表現としての限度はあるけれど、他のサイトよりは書ける範囲が広い。

映画館 そうですね。不良やヤクザを書くんなら、ある程度突っ込んだ激しさは必要だろうって個人的には思います。というか、ずっと不思議だったんですよ。暴走族が全然ワルじゃなくて町の自警団みたいになってたり、「ヒロインが、襲われる寸前で助かる」みたいなのがセオリーだったりするの。

小池 ケータイ小説界における「正統派暴走族」って、町を守るヒーロー状態なことが多いですね。暴走してない(笑)。

映画館 いやいや、不良な時点でワルでしょっていう。

編集者 書き手の人たちの多くは若いので、実際に不良がバイクで暴走してるところなんて見たことがないんでしょうね。一つ面白い暴走族もの・ヤクザものが出てくるとみんながそれをお手本に書くから、みんな同じような設定になるんです。だからどれもたまり場が倉庫だったり……。

小池 暴走族の中に「情報担当」っていう謎の役職があって、敵対チームにやたらとハッキングをかけていたり。

編集者 「空想ヤンキーもの」なんですよね、要は。

小池 「空想ヤンキーもの」! その表現、ものすごくしっくりきます。

でもそういう発想も、結局誰かの「テンプレをふまえた自由さ」というか、王道を無視するところから生まれているわけですね。映画館さんの場合は、それまでにできあがっていた、「不良もヤクザもそれほどのワルじゃない」「ヒロインは、なんだかんだ身の安全が守られる」というテンプレを無視したと。

映画館 そうですねえ。あまりリアルにすると実録小説みたいになっちゃうんで難しいですが、自分なりに、「これはないよな」と思うことは書かないです。私、とにかく好き嫌いが激しいので(笑)。

たとえば私は、ヒロインが暴走族やヤクザと張り合えるくらい肉体的に強い、っていう設定が苦手なんですけど、それは「小さくて華奢なのにそんなに強いっていうのは変だよなあ。それならせめて吉田沙保里くらいの体格じゃないと」って思っちゃうからなんですね。ヤクザだからって、みんながすぐに銃を出すのも好きじゃない。魔法のステッキみたいな使われ方って冷めるんで。あとは、ヤクザがヒロインと普通に民間のホテルに泊まったり、海水浴に行ったりしてるのにも違和感ありますね。指定暴力団の幹部は普通のホテルなんて使えないはずだし、ましてや海なんて……ねえ。掘って埋めてる方なのに遊びにいっちゃダメだろって。

小池 (笑)。そういうリアリティ重視の方向性が、「ヒロインが具体的に悲惨な目に遭う。都合よく寸前で助かったりはしない」という部分にも反映されている気がします。

地方の女性たちが共有する、「空想関東」の物語。

小池 そうしたリアリティを重視する一方で、他のケータイ小説と同じく、地名だとか時代だとか、そういった具体的なディティールは意識的に排除されていらっしゃいますよね。

映画館 そうですね。具体的な場所やなんかはイメージしてほしくないんです。

編集者 これは作家の方はみなさんおっしゃいます。

小池 いつ、どこで起きたことかわからない……というスタイルの小説はたくさんありますが、ケータイ小説の匿名性は特に強いなと思うんです。フィクションによくある「架空の街名」さえ出てこなかったり。だからこそ、日本全国どこに住んでいる人でもひっかからず読める、ということなんでしょうね。「関東ナンバーワン暴走族」が出てくること、みんなが標準語を話していること、歌舞伎町っぽい大きな繁華街が出てくることから、「なんとなく関東っぽい」印象くらいは受けるのですが。

編集者 でも、それもやっぱり「空想関東」なんですよ。実際の東京、実際の歌舞伎町を知っていて書いているわけじゃなく。東京を知らない、若い女の子が書いていることが多いから。

小池 ケータイ小説の書き手さんが多い地域というのはあるのでしょうか?

編集者 書籍化作家さんに関して言えば、西日本が多めですね。大阪兵庫福岡……鹿児島にもいらっしゃいます。東北地方には少ないですし、沖縄もです。もちろん、これは単純に人口比の問題でもあると思いますけど。

小池 それでも、東京よりまず関西の名前が挙がるところに、ケータイ小説の傾向が現れている気がします。「ケータイ小説の書籍は地方で売れる」とケータイ小説ブームの頃は言われていましたが、それは今も同じでしょうか?

編集者 それは変わらないです。

小池 「空想関東」の「空想ヤンキー物語」が、地方でより多く書かれ、地方で読まれているわけですね。興味深いです。

目指すのは「町の定食屋作家」

小池 映画館さんの小説の話に戻りますが、映画館さんの小説は、ヒロインが最初に一旦絶望の底に落ちて、ヒーローに救われて、あとはとにかくがっちり守られますよね。そういう状況変化のダイナミックさというか、不幸から幸福への上昇の角度が最初から激しいのは、意図的な構成ですか?

映画館 書く前にプロットを作るようなことはまったくしないんですが……うんとひどい目にあわせてそのぶん救ってあげるというか、不幸を味わったぶん甘やかして幸福にしてやる、というのが好きなんですね。何事もなくずっと平和とか、逆にひたすら不幸っていうのは興味なくて。

小池 ヒロインとヒーローが恋仲になるのも、大抵は物語冒頭ですしね。

映画館 はい、とっととくっつけたいんです。幼馴染ものとかにありがちな、いつまでもすれ違って、ジレジレしてるのとか嫌。そして絶対最後は大団円で終わらせます。死別とかは最悪ですね、絶対読まない。中国史小説なんかは、史実だからしょうがないんですけど(笑)。

小池 ああ、だからこそ『恋空』の頃のケータイ小説には興味が持てなかったんでしょうか。

映画館 そうです。あの頃のケータイ小説って、ヒロインが不幸な目にばっかりあってたじゃないですか。だから「私は好きじゃないなー」って冷めた目でしか見られなかったんですね。私の小説は主役カップルが別れないし、最後にどっちかが死んだりもしない。そっちには興味がないので、そういう意味では読者さんたちにも安心して読んでほしい、と思ってます。私、「町の定食屋作家」を目指しているんですよ。「この店いつも同じもん出してるなー、よくつぶれないよなー」って思われてるけど、でも行けば期待通りのものが食べられるから安心して通えるっていう(笑)。

小池 それは、今時の読者のニーズにも合っているのかもしれませんね。少女漫画や少女小説の編集者さんから時々、「今は、女性読者が不安になるような展開は極力避けなければいけないんだ」という話を聞くんです。ヒーローが病的なくらいヒロインに執着していたり、ヒロインのライバルキャラはいない方がよかったりする。出て来ても一瞬で袖にされるくらいで。

映画館 安心を求めている人はたしかに多いんじゃないですかね。職場のアルバイトさんたちと接していても、今の若い人たちってメンタル弱いなーと思いますもん。打たれ弱くて、ちょっと怒られたり、否定されたりするだけでももう立ち直れなくなっちゃう。そういうタイプに、私の小説はガチッとハマるんじゃないかな。

あなたも「読んだらハマる」潜在的ファンかもしれない!?

WEZZY編集 ケータイ小説の「不良モノ」を見て、最初に思い出したのが1982年の映画「ハイティーン・ブギ」(※3)だったんですよ。あれってヒーローが暴走族で、だけど財閥の御曹司なんですよね。女の子の好むヒーロー像として、「出自のいい不良」っていうのは古くからある一種のテンプレなんですかね。

※31977年に「プチコミック」(小学館)で連載が始まった漫画『ハイティーン・ブギ』(作・後藤ゆきお、画・牧野和子)の映画化作品。近藤真彦、野村義男、田原俊彦や武田久美子らが出演している。

映画館 そうだと思いますよ。だからEXILEもワルっぽくするんでしょう。

小池 『HiGH&LOW』なんかは、そのものズバリ「空想ヤンキー」ものですよね。

映画館 そうそう。あの人たち、絶対不良なんかじゃないけど、わざとああいうワイルドな感じにしているわけじゃないですか。

※4)元EXILEHIROがプロデュースする総合エンターテイメントプロジェクト。音楽、テレビドラマ、映画、漫画など多数のメディアで展開されているオリジナルストーリーで、「S.W.O.R.D.地区」と呼ばれる架空の土地を舞台に、不良チームが戦いを繰り広げる様を描いている。

小池 暴力的な手段を使ってでもヒロインを守る勢いがあって、どんなに自信がないヒロインのことも強引に愛してくれて、金で解決できることならいつでも解決できるだけの財力があって……という問答無用な強さを求めると、どうしても設定として「ワルの強者」になってしまうのかもしれないですね。バランス感覚のとれた、庶民的な優しいイケメンは、少なくともケータイ小説では王子様になりづらい。

映画館 それはどっちかというと当て馬に回されるキャラですね。

小池 当て馬(笑)。

映画館 最近のヒーローは、ちょっと病んでるくらいじゃないとダメですから。少女漫画なんかでも、そういうヒーローが増えてないですか? よく、「現代人は恋愛に対して淡白だ」とか、セックス抜きの“添い寝”フレンドが手軽でウケているとか聞きますけど、本当にそうなのかなあと疑問です。少なくとも私の小説の読者さんたちを見ていると、激しめの関係を求めている人はむしろ増えてるんじゃ、と思うんですけど。

小池 そういうニーズを持つ女性にとっては、「ワルのイケメンが、強引に自分を愛してくれる」という恋愛小説はたまらないんですよね。少なくとも、そういうニーズに応える作品が、ダークな設定を受け入れる土壌のある「魔法のiらんど」に多いのは確かだと思います。

映画館 だから、読んだらハマる、という人は実は多いと思うんですよね。私もそうでしたし。ただ、知る機会が少ないだけで……。あとは、「ケータイ小説=『恋空』みたいな小説」っていうイメージが抜けていないとか。

小池 たしかに、これだけ大きく変わったということを、知らない人は多そうです。

そもそも私がケータイ小説についてのコラムを書いたのは、「ケータイ小説は風前の灯だ」という主張のウェブ記事を複数見たからでした。編集部の方から見て、そのように感じることはありますか?

編集者 うーん、この出版不況ですから、「とても売れています!」と胸を張って主張することはどこも難しいと思いますけども(笑)。初版部数は、作家さんによりますが1万台といったところでしょうか。もっと多くなる方ももちろんいます。

小池 やっぱり、ミリオンヒットが出ていた時代とは違うとはいえ、まだまだニーズは衰えそうにないですね。

編集者 そうですね。不良ものだったり、ヤクザものだったり、流行のテーマが変化するたび「もう題材は出尽くしただろう、新しいものは出てこないだろう」と私たちも思うんですよ(笑)。それでも、新しくまた次の何かが出てくる。その繰り返しは変わらないのかなと思います。

映画館 仮面ライダーなんかと同じですよね。仮面ライダーという枠があって、内容は毎年ちょっとずつ変わるっていう。

小池 映画館さんが、書き手として読み手として、今後のケータイ小説界に望むことはありますか?

映画館 もっと多くの人に、こっちの世界に来てもらいたいです。私好みの作品を書いてくれる人も増えるかもしれませんし(笑)。私の作品だって、コピペしない限り、どれだけ真似してもらってもオッケーなんで。個人としては、このまま「魔法のiらんど」で、好きな話を書き続けられたらいいなという気持ちしかありません。

小池 このインタビューでもしかしたら、“潜在的ケータイ小説ファン”が、魔法のiらんどに気付いたり、出戻ったりするかもしれませんね。今日は長い時間ありがとうございました。
(取材・構成/小池みき)

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