そしていま日本は、未曾有の不況の真っただ中。いつの世も、不景気な世で一番しわよせを食らうのは弱い立場の女性や子どもです。
これをお読みのあなたはおっしゃるかもしれません。
「いやいやいや、日本では少なくともお金のために女の子を結婚させるようなことはしないから」
しかし本当にそうでしょうか? 現在では省略するカップルもいるとはいえ、日本でも結納システム、残ってますよね……。ちなみに、ご存じない方もいるかもしれないので説明しますと、結納とは、結婚する前にまとまった額のお金を男性が女性に贈る伝統的な風習です。
私の知人女性は実母にこう宣言されたそうです。
「兄弟の結納でお金がたくさんかかったのだから、アンタは結納金を払わない男とは結婚させない」
現在では、結納金は結婚するふたりの新しい生活を準備するためのもので、決して女性の家に入る性質のものではありません。知人のおかあさまはそこのところを勘違いしてらっしゃるのでしょう。
女性の結婚は「お金」と引き換え?
ここまでのエピソードはレアだとしても、「発言小町」あたりをのぞいてみれば、結納に関する相談はボロボロ出てきます。結婚にまつわるお金がらみの悩みは現代日本でもめずらしくないのです。
加えていまの日本では、働く女性の3分の1が貧困状態にあります。
2013年に出版した拙著『失職女子。』(WAVE出版)は、失業し病気を抱えて働くに働けず、徐々に生活に困窮していった経験を元に書いた本ですが、「(生活できないのなら、もしくは働けないのなら)結婚すれば?」というコメントが多く寄せられ、困惑した経験があります。
こんな時代だからこそ、みなさんに『ソニータ』を見てもらいたいです。
さてソニータ自身はどのような人なのでしょうか。
彼女が初めてラップを書いたのは14歳のころで、内容は児童労働についてだったそう。ラジオで耳にした、イラン人のラッパー影響だそうです。
イランでは女性がひとりでラップするのは非合法であり、声を上げることすら危険です。けれどもソニータは現状を見過ごせず、14歳にして、児童労働を題材にした初めてのラップを書いたのです。
そもそも彼女はなぜラップを表現手段に選んだのでしょうか。ソニータはインタビューでこう答えています。
「歌詞を聞いてもらえるから。自分の経験をほかの人と共有し、児童婚の影響を説明するのに最適な方法だからです。ポップスも書いてみたのですが、歌詞が入り切りませんでした。そこでラップを試してみたらメッセージを伝えるのにぴったりでうれしくなりました。ラップを通じて自分の思いを伝えることで、いろんな人の考え方や行動を変えることができると思っています」
それでも家族は憎めない
「家族に売られそうになる」という壮絶な体験をしたソニータです。彼女には、家族を恨む感情はないのでしょうか。かといって、だいすきな家族のいうことに背いたら、大きな罪悪感が残るかもしれません。そのアンビバレントさに引き裂かれることはないのでしょうか。
ソニータはこう語っています。
「児童婚は教育、平等、健康、暴力のない生活を送ることなど、少女たちの基本的人権を侵害します。だけどそういう見方をしない人は多い。それが女性にとってどんなにひどいか理解していないのです」
そしてこうも言います。
「私を売ろうとした家族を憎むことはできません。なぜそういう行動に出たか理解できるからです。問題の根幹は愛情の不足ではなく理解の不足です。私は怒りや恨みの感情ではなく、思いやりと共感で問題を解決しようと考えます」
ソニータの罪悪感は、家族の命令に背くことに対してではないのですね。彼女が罪悪感をもつとしたら、それは、イランやアフガニスタンの友人、そして多くの知らない子どもたちがいまも強制的に結婚させられているのに、その現状について何も行動を起こさない、ということに対してです。
彼女は現在、勉強を続けるかたわら、児童婚反対と人権擁護のための活動に従事しています。ソニータの物語と音楽は現在、世界中で受け入れられ、若者のみならず指導的立場の人たちも動かしはじめています。ソニータのメッセージが世界を変えはじめているのです。