水原希子の「芸名問題」にみる日本の閉鎖性と人種差別~ナタリー・ポートマンもブルーノ・マーズも芸名。その本名は?

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

ユダヤ系女優が「英語名」を名乗り、米国大統領夫人を演じる

 アメリカ人俳優もエスニック名を伏せて芸名を使うことがある。興味深いのは、アメリカにおいて外観からマイノリティであることが明らかな黒人やアジア系より、非WASPの白人のほうが芸名を使うケースが多いことだ。

 WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)とはアメリカにおける白人のマジョリティ・グループを指し、ユダヤ系やイタリア系などは白人であってもWASPではない。だがWASP風の名に変えることによってWASPとして扱われ、WASPの役を得やすくなるのが芸名を付ける理由だ。

 ハリウッド女優のナタリー・ポートマンも芸名を使うひとりだ。

ナタリー・ポートマン
本名:Neta-Lee Hershlag(ネタ-リー・ハーシュラグ) 1981年エルサレム(*)生まれ。米国とイスラエルの二重国籍。母親はユダヤ系アメリカ人、父親はイスラエル人。両親はイスラエルで結婚し、ポートマンはエルサレムで誕生。3歳の時に一家でアメリカ・ニューヨーク郊外に移住。8年生までユダヤ学校に通い、ヘブライ語を話す。ユダヤ教徒。
*イスラエルとパレスチナ自治区の双方が首都と主張

 ポートマンはインタビューで自身のアイデンティティについて、以下のように語っている。

「アメリカをとても愛しています……が、心はエルサレムにあります。私が故郷と感じる場所です」

 ポートマンはユダヤ教徒であり、本名の Hershlag はユダヤ系に特有の姓だ。アメリカで女優となるにあたってユダヤ系の名前では成功しにくいと考え、芸名を使っているのだろう。

 アメリカのユダヤ系には社会的、経済的な成功者が多い一方、民族全体への偏見は今も残る。理由はキリスト教が中心のアメリカにおいて非クリスチャンであることに加え、第二次世界大戦中、ナチスによる凄惨なホロコースト(大量虐殺)を体験し、被害者としての「暗い」イメージを与えられてしまったことだ。ポートマンの父方の曾祖父母もアウシュヴィッツの収容所で殺されている。

 しかし人種としては白人であるため、英名を使うことによってユダヤ系のイメージを払拭できる。ただし、ほとんどの俳優は経歴自体を隠すことはせず、ポートマンもユダヤ系として上記の発言をおこなっている。

 そのポートマンは昨年、ケネディ大統領の妻ジャッキー・ケネディの伝記映画『ジャッキー』に主演した。アメリカ史上もっとも愛されたファーストレディのひとりであり、アメリカを象徴する女性を見事に演じ切ったポートマンは、アカデミー賞最優秀女優賞にノミネートされた。

スペイン名では「ラティーノと思われる」

 日本でも高視聴率を上げたドラマ『ザ・ホワイトハウス』(1999-2006)で合衆国大統領を演じたマーティン・シーンも、本名は Ramón Antonio Gerardo Estévez (ラモン・アントニオ・ジェラルド・エステベス)だ。父親がスペインからの移民であり、アメリカ生まれの息子にもスペイン語の名前をつけたのだ。

 スペイン系のマーティン・シーンは白人だが、アメリカでスペイン語の名を持つとラティーノ(中南米系)と思われることのほうが多い。これでは白人の役が取りにくく、マーティン・シーンという芸名となった。

 移民はアメリカで生まれた二世の子供にアメリカになじみやすいよう英名をつける者と、民族アイデンティティを維持させるために祖国の名をつける者に分かれる。マーティン・シーンの父親は息子にスペイン系のプライドを持たせるべくラモンと名付けたが、息子本人は職業上の理由により芸名を使っている。しかし、そのマーティン・シーンも4人いる自分の子供全員にスペイン語の名前を与えている。

 長男エミリオ・エステベスも父親の後をついで俳優となったが、本名のままだ。誰が聞いてもラティーノと思う名前であり、エスニック・アイデンティティと俳優としてのリスクを考え合わせた上での決断だったと思われる。三男カルロス・エステベスもやはり俳優となった。一時は多くの映画やドラマで主役を務め、のちにドラッグ問題を起こしたチャーリー・シーンだ。芸名に父と同じ「シーン」を使っている。俳優としてはエミリオ・エステベスよりチャーリー・シーンのほうが成功したと言えるが、成功の理由と芸名との因果関係は不明だ。

 イタリア系もステレオタイプ化されることが多く、かつ独特の名前が言いにくい、覚えにくいことから芸名をつける俳優やミュージシャンがいる。例えばレディ・ガガの本名は Stefani Joanne Angelina Germanotta(ステファニ・ジョアン・アンジェリーナ・ジャーマノッタ)だ。現在、ドラマ『マダム・セクレタリー』で米国国務長官を演じている女優ティア・レオーニの本名は Elizabeth Tea Pantaleoni(エリザベス・ティア・パンタレオーニ)である。どちらも中高生くらいの時期、クラスのいわゆるアホ男子から「マフィアみたいだ」などとからかわれていたかもしれない姓である。

1 2 3

「水原希子の「芸名問題」にみる日本の閉鎖性と人種差別~ナタリー・ポートマンもブルーノ・マーズも芸名。その本名は?」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。