殺人シッター公判/実妹の剃毛をした息子を見て見ぬ振りした父・乳児殺害事件を「事故だった」と言う母

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実母もまた、異様に見えた

 実母は誰の目から見てもおそらく物袋の母親だと分かるほどに物袋と瓜二つであり、常に傍聴席で息子の裁判を見守っていた。だがその様子を時折うかがうと、終始熱心に傍聴しているというわけではなく、何か手遊びをしたりといった風で、息子が大きな事件で裁判員裁判に付されているという雰囲気ではないのである。真剣な顔をしても笑っているように見える損なタイプの人間がいるが、実母はつねに薄笑いを浮かべてるような表情で傍聴席に座っていた。損なタイプなのか、本当に薄笑いをうかべていたのかは、分からない。この日はオレンジのスーツで尋問に臨んでいた。先ほどの気の弱そうな実父とは打って変わって、早口でハキハキと答える。

弁護人「仕事は?」
実母「無職です!」

と、堂々とした様子だ。

 尋問ではまず物袋が保育の仕事をするようになった経緯が語られた。もともと実母が自宅でシッターをやっており、それを見た物袋が「僕もしたい」と言ってきたのだという。その後物袋は、某保育施設で働き始めるのだが「ちょっと難しいかなという感じはしました。子育てもしてないし、保育の経験ないし、簡単にできる仕事ではないと思っているからです。私が経験した中でも大変なことなので、息子の性格上、ひとつのことに集中すると周りが見えなくなる。小さい子を預かる仕事、怪我させてはいけない、そういうことあってはいけない、ちょっと無理ではと思いました」と、物袋が保育の仕事に適していないことを感じていたという。

 だが、物袋がその後、自宅でシッターを始めたとき、強く止めてはいない。「大丈夫なの?」と聞いただけで、物袋に「大丈夫」と返されたのちは反対することもなかった。代わりに送迎を頼まれるうちに、物袋の仕事を手伝うようになったという。

実母「通信でチャイルドマインダーの勉強をしていると言っていました。わからないことがあったら、チャイルドマインダーのほうで相談に乗ってくれると息子から聞いていた、だったら大丈夫かなって思いました」

 とはいえ、間近で見た物袋の仕事ぶりは「十分ではない」と感じていた。オムツの替え時に気づかなかったり、子供を預かっている間に目を離し事務作業を続けていたりした姿を目の当たりにしたという。その都度注意をしていたとも語っていた。

 実母はこのように物袋の保育の仕事スキルが十分でないと認識し、注意をしたりもしていたが、一方で、物袋が起こした大きな事故については寛大な姿勢を見せ、実父と同様の異様さをまとっていた。例えば、物袋は一連の事件を起こす前、預かっていたお子さんにポットのお湯をこぼし大火傷を負わせるという事故を起こしていたのだが、それについてはこんな調子だ。

実母「事故が起きたことは知ってます。昼寝から起きてオムツが濡れてるから替えようと外して、そしたらイヤイヤといって履かないで部屋をかけずり回った時、流しのところに置いてたポットのコンセントがひっかかり、ひっくり返ってお湯を浴びて大火傷を負いました」

 こんな話を、最初と同じようにハツラツと語るのである。さらには、龍琥君の殺人について、こう言及した。

実母「私は、えと、故意にやったアレではなく、事故だったと思ってます」

 物袋の言い分を信じているようだ。ちなみに、いじめについては父親と同じく「聞いたことはなかった」、実妹の裸を覗き見していたことについては「しちゃいけないことをしているなとは思ってました」などと語った。

 物袋の味方をしている母親だが、保育に関しては心配していたという主張だ。だがこれがポーズだったことが、検察官からの質問で明らかになる。

検察官「あなた被告人がシッターをすること自体が難しいと思っていたと、保育の仕事も難しいと、それ警察にも同じ話しましたか?」
実母「はい」
検察官「被告人が『シッターズネット』という既存のサイトと同じ名前のサイトを立ち上げたからそれを注意したんではないですか?」
実母「おぼえてないです」

 どうやら物袋の逮捕直後は、物袋の保育能力を心配していたとは言っていなかった様子だ。また、母親が先ほどの父親と違ったのは、物袋の性癖に関することについてだった。

検察官「あなたは被告人の性的趣味は知っていますか?」
実母「知らないです」
検察官「男の子に性的な趣味が向いているとは?」
実母「思いませんでした」
検察官「中学校の頃、男の子に性的興味向いていると思わせる出来事は?」
実母「ありませんでした」
検察官「中学校の頃、小学校45年生の男の子と裸でいたことがありますね?」
実母「たまたま早く帰ってきたときにありました」
検察官「小さな男の子に性的興味が向いているとは?」
実母「思わなかったです」
検察官「なぜ裸でいると思ったんですか?」
実母「暑かったんでぇ〜、裸でなく〜、上は裸だったですけど下は履いてたんでぇ〜、その点は暑いのでぇ〜〜〜」

 と、物袋が小児に性的興味が向いていると思わせる出来事があったにもかかわらず頑なにそれを否定し、追及が続くと語尾を伸ばしながら同じことを繰り返し始めた。暑いから不自然に思わなかったという言い訳は、自分がそう思いたいからか、それとも物袋が小児性愛者であることを否定したうえで起訴事実を否認しているため、それに合わせるという歪んだ親心からか。

 物袋の実妹に対する暴力や陰毛を燃やすなどの行為についても、同じように大したことではなかった感を醸し出そうとする。

検察官「被告人の妹への暴力は知ってますか?」
実母「きょうだい喧嘩で叩かれたことは知っています」
検察官「カッとなると被告人はいつも暴力を振るっていたんじゃないですか?」
実母「なかったです」
検察官「あなた以前そう言ってませんでした?」
実母「娘からは、お兄ちゃんと喧嘩したと聞いたので、息子に聞くと、喧嘩両成敗なので注意しました」
検察官「被告人の逮捕直後の調書であなたは『カッとなるといつも妹に暴力を振るう』と言ってなかったですか?」
実母「言ってないです、振るったことはある、と言いました」
検察官「被告人の妹さんへの暴力はあくまでもきょうだい喧嘩の範疇?」
実母「はい、そうですね」
検察官「陰毛を剃ることもきょうだい喧嘩の範疇なんですか?」
実母「それはやっちゃいけないとは思いますが……えーと……主人に、主人が話してるので私からは話してません」
検察官「被告人の妹は、あなたの娘でもあるんじゃないですか?どうして話をしなかったんですか?」
実母「私の両親が、2人で怒ると逃げ場がないからどっちかが言えばいい、と言ってたので、そうやって私も育てたので、主人に任せました」

 このように関係者が、事件直後と公判時で話を変えることはよくある。それ自体は珍しくはない。公判の主張に沿うように話を変えたり、気持ちが変わって話をしたくなくなったりなど、いろいろな事情があるが、いずれにしても、物袋の母親は、物袋の主張に沿って彼をかばうことに決めたようだ。

検察官「被告人が妹さんにした性的なイタズラで、陰毛を燃やした以外のことは聞いてない?」
実母「なかったと思います」
検察官「あなたの妹さん、つまり被告人の叔母から、被告人とその妹を離れさせるため、親戚のところで働かせた方がいい、と言われてなかった?」
実母「言われてないです」
検察官「本当に言われてなかった?」
実母「言われてないです!!!!」
検察官「なぜ妹さんは家を出たんですか?」
実母「わかんないです、実際に聞いたわけじゃないんで」
検察官「関心はないんですか?」
実母「というよりも、いなくなる直前には会ってないし話もしてない、主人がたまたま連絡が取れなくて、何回かアパートに行ったとき、たまたまいて、連絡するように伝えて、その日を……その日にんと……待ってたんですが、連絡取れなくて、私が職場に行ってみたら、娘はいなかったです」

 公判で物袋は実妹への暴力や性的虐待について、殴る蹴る、ということと、着替えを覗くこと、そして陰毛を剃ることのみ認めている。両親は法廷で、これらのことが、さほど大きなことではなかったように語った。だが、検察官が匂わせてくる当時の親類の話などから、物袋の実妹への行為は、家族の中で相当大きな問題になっていた可能性がうかがえる。妹は両親にも行き先を告げず失踪して、今も行方が分からない。これが問題の重大さを物語っている。だが家族は物袋を攻めるでもなく、問題を放置し続けた。両親が物袋の暴力を恐れて強く言えなかった、という可能性もゼロではないだろう。実の妹に対して性的な興味をむき出しにし、ときに暴力をふるい、欲望のままに振る舞う男に、両親は何も手を打てなかったのだ。そして何より、小児性愛の片鱗を見つけていたのに、乳幼児相手にシッターをすることを知りながらそれを止めなかった。無力な親の前に家族は崩壊し、事件は起こってしまった。

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