トランプが見捨てた、ハリケーン被災地「米領プエルトリコ」を救え!〜立ち上がるカリブ海系セレブと5人の元大統領ズ

文=堂本かおる
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投票権のない市民に無関心

 タイムラインを読むとトランプが被災者にも、米領としてのプエルトリコにもほとんど関心を抱いていないことが分かる。だが救援の不十分さを非難されると憤り、「自分がいかによくやっているか」「フェイクニュースがそれを伝えない」の2点を繰り返すのみで、新たな対応を検討することなど、具体的な発信は一切していない。

 P.R.は米領だが自治区であるため、島民に大統領選への投票権はない。また、昔はスペイン領の島であったため今もスペイン語が使われており、島民はヒスパニックである(*)。前述のとおり、非常な財政難でもある。こうしたことがトランプの無関心の理由と思われる。トランプにとってP.R.は、票にもならなければ金もない、価値のない島なのだ。

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 しかし米国本土には島の人口340万人をしのぐ550万人のプエルトリカンが暮らしている。貧しい島ゆえに多くの人が本土に移住し、本土生まれの二世や三世以降の世代もいる。P.R.に地理的にもっとも近いフロリダ州、仕事の数が多いという理由でニューヨーク州、隣りのニュージャージー州などに多い。ニューヨークのマンハッタンにはスパニッシュハーレム、スペイン語ではエル・バリオと呼ばれるプエルトリカン・コミュニティがあり、毎年5月にはミッドタウンで盛大なプエルトリカン・デイ・パレードがおこなわれる。プエルトリカンが話す英語とスペイン語をまぜた早口の “スパングリッシュ” はニューヨークの風物詩であり、この都市になくてはならないもののひとつだ。

 ちなみに米国西海岸におけるラティーノ/ヒスパニックの最大多数派はメキシコ系だが、東海岸ニューヨークではプエルトリコ系/ドミニカ共和国系/キューバ系のカリブ海系ラティーノがマジョリティである。各コミュニティで民間人による救援物資や寄付金を集める活動が続いている。多くのプエルトリカンが島に家族親戚を持つのだ。トランプは生まれも育ちもニューヨークであり、他州のアメリカ人のように「プエルトリコが米領とは知らなかった」わけではないと思われるが、プエルトリカンへの情の薄さには驚かされるばかりだ。

立ち上がるプエルトリコ系セレブ

 上記の理由によりアメリカにはプエルトリコ系の著名人が少なからずいる。日本で最も知られているのはシンガー/女優のジェニファー・ロペスかもしれない。ジェニファーは、さっそく元夫でやはりプエルトリコ系のサルサ界のスーパースター、マーク・アンソニーとともにP.R.支援に100万ドルの寄付をおこなうと発表している。

 ラッパーのジェイ・Zが共同オーナーである音楽配信会社TIDALは10月17日にNYブルックリンでチャリティ・コンサートを主催する。ジェニファーを筆頭に、P.R.生まれで、やはり100万ドルの寄付をするレゲトン・スター、ダディ・ヤンキーなど多くのミュージシャンが出演する。ホストはプエルトリコ系の人気ラジオ・パーソナリティのアンジー・マルティネス。プエルトリコ系の女優/ダンサー/社会活動家のロージー・ペレズ、やはりプエルトリコ系のリン-マニュエル・ミランダも特別ゲストとして参加する。

 リン-マニュエル・ミランダはブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』を大ヒットさせたクリエイター兼俳優だ。前作『イン・ザ・ハイツ』はラティーノ・コミュニティを舞台とした作品でプエルトリカンのキャラクターも登場する。自身は本土生まれだが家族親戚が島に暮らすリン-マニュエルはトランプの言動に心底怒り、「地獄に行きやがれ」「サンホワン市長は連日24時間働いている。お前はゴルフをしている」とツイートしている。事実、トランプは自身が所有するゴルフ場からツイートしていたのだ。

 新シーズン幕開けのコメディ番組『サタデーナイトライブ』では、ニュースキャスター役のマイケル・チェがP.R.支援を怠るトランプを「ドケチな白人野郎」と揶揄し、拍手喝采を浴びた。

 これまでもセレブや一般人からのトランプ批判には強烈なものが多々あったが、今回の件は大統領にあるまじき国民の人命軽視。人々の怒りが異なるレベルになったことが見てとれる。

 P.R.以外のカリブ海系アーティストも支援をおこなっている。ジェニファーの現在の恋人で、ドミニカ共和国とアメリカの二重国籍保持者である元ニューヨーク・ヤンキースのアレックス・ロドリゲスは、ジェニファー、元夫のアンソニーとともにチャリティに参加している。

 キューバ系ラッパーのピットブルは、P.R.のガン患者を自身が所有するプライベートジェット機で本土に運んだ。

 バルバドス出身のリアーナは、島の窮状を訴えるショッキングな新聞の表紙に「あなたの(米国)民をこんなふうに死なせないで」と書き添えてツイートした。

 また、オバマ/2人のブッシュ/クリントン/カーターの5人の元大統領がハリケーン・ハービー、ハリケーン・イルマの被災者支援として始めた「ワン・アメリカ・アピール(5人の「元・大統領ズ」がハリケーン被災で団結〜アメリカの元大統領はふだん何をしているか)は、P.R.、および同じハリケーンで同様に被災した米領ヴァージン諸島への支援も始めた。

 こうしてセレブや民間からの支援もおこなわれているプエルトリコだが、復興への道のりは長い。電力の完全復旧には4〜6カ月かかると見積もられている。熱帯の島でエアコンが使えないことは非常に辛い。また電力ポンプが使えないと送水が不可能な地区がある。学校の再開も今月半ばを目標としているが、どうなるかまだ不明だ。空港が完全に復旧すると、本土の親戚を頼って島を脱出する被災者が続出するとも予測されている。そのためフロリダやニューヨークの教育庁はスペイン語話者の生徒を迎える準備を進めている。

 そして今、懸念されているのがラスヴェガスの乱射事件によって報道も人の関心もプエルトリコから離れてしまうことだ。犠牲者の数はもとより、かねてよりアメリカ最大の論争のひとつである銃規制法問題に直結するだけに報道もそちらに傾くことが予測される。

 だが、プエルトリコはアメリカ合衆国であり、島民はアメリカ市民だ。現在の米国大統領がその事実を明確に認識できているかは不明だが、少なくとも我々はプエルトリコを見捨てることは決してしない。
(堂本かおる)

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