ウッチャン、『逃げ恥』、『バイプレイヤーズ』…ポリティカル・コレクトネスの中で生まれつつある新しいエンタメ 西森路代×清田隆之(桃山商事)

【この記事のキーワード】

清田 「男性の不機嫌」は桃山商事でやってる恋愛相談にもしょっちゅう寄せられるテーマです。特に権力を持った男性(偉い人とか上司とか)の不機嫌は暴力に等しい。あれって、不機嫌を発露すれば自分の要望が通ったり、周囲が慮ってくれたりすることをわかってやっているんですよね。

 つまり不機嫌な態度って「便利な手段」なんだと思います。これは単なる想像に過ぎませんが、松本人志とか、石橋貴明とか、坂上忍とか、不機嫌な態度によって現場の人をめっちゃ支配してると思う。とにかく男の不機嫌は本当にやめてほしい。それでいうと、ウッチャンからは不機嫌さをまったく感じないですね。

西森 確かに、最近の「とんねるず」のことも話題になりましたけど、誰かを貶めて笑ったりするほうがありきたりで昔からなんの進歩もないんだってことに気づいていない人は気づいていないですよね。

 一方でいま、「ポリティカル・コレクトネス(PC)が表現の幅を制限する」という批判があります。だからこそ、それを覆すのが挑戦であり、かっこいいことなんだ! みたいな方向に信じ込んで、人を傷つけるネタをあえてやる人がいるんじゃないかと思います。

 例えば、誰も傷つけないネタは、ナイフみたいに尖ってないからかっこ悪いとか、女性におもねっている感じがするからしゃらくせーとか、もっと言えば、俺がやりたいことを奪われて去勢された気分になるとか。それはミソジニーとも密接につながっているんです。

 それでテレビやお笑いが嫌いって視聴者も多いと思いますけど、実はもはや若い世代でそんなことを言っている人って少くなっているし、差別や弱いものいじめをネタに込めない人のほうが、ネタの精度はあがっていると思います。そういう新しい枠組みの中でどうやって新しい物語や笑いをつくるかが試されているから、誰も傷つけない笑いを作るほうがよっぽど挑戦的で難しくてかっこいいことだと思うんです。

清田 先日wezzyでも「ラファエル・禁断ボーイズ…これ以上放置できない、YouTuber業界に蔓延する性差別・民族差別的動画の実態」という記事が上がっていましたが、僕も最近、個人的に「YouTuberとミソジニー」問題が気になってます。

 VALU問題で活動休止中のラファエルや禁断ボーイズ、ベビーフェイスとマッチョボディで人気のぷろたん、「ナイトプールでガチ泳ぎ」という動画が炎上した6面ステーション、「レペゼン地球」というユニットに所属するDJ社長などなど……。

 彼らは「街中で女性にお金をいくら渡したらラブホに行ってくれるか」「どうやったらおっぱいを触らせてもらえるか」みたいな検証動画や、女性に嫌がらせやセクハラをして盛り上がる動画、喜々として外見差別を叫ぶような動画などでめちゃめちゃ再生回数を稼いでるんですよ。

西森 全然知らなかったけど……そんなことが起こっているんですね。

清田 YouTuberって基本的に数字の世界で、誰がどう観ているかは問題にならない。そこではマジョリティにウケる内容のものが志向され、そのためには新しい価値観を提示するような動画よりも、旧態依然の価値観に乗っかった動画のほうが数字は稼げる。で、ミソジニーって残念ながらまだまだマジョリティの感覚なんですよね。

 さらに、売れっ子YouTuberの動画ってとにかく編集のテンポがめちゃめちゃいいんです。これは短い動画をサクサク観てもらうための工夫として発達したものだと思いますが、あまりにテンポがいいため、内容の是非を考える前に脳ミソが「おもしろい」と感じてしまう。リズミカルだから、観ているだけで気持ちよくなってしまうわけです。

 この「旧態依然の価値観×異常なテンポの良さ」という要素によって、観る者は思考する間も与えられないままミソジニーを摂取していく。ミソジニーなYouTuber自身にとって女性を全力でバカにすることは快楽だろうし、それで再生回数も稼げてしまうから、何も疑問を持たないどころか、それこそが大衆が求めているものだとすら考えて今後もミソジニー動画をバンバン作っていくと思う。こうやって若い世代にもミソジニーの構造が再生産・再強化されていくことを考えると、かなり恐ろしいことだなと……。

西森 そういう“快楽や条件反射で見てしまう”ものが増えすぎたとき、プロの芸人さんが「自分たちはちゃんと知恵を使って逆のものをつくろう」となったらいいなと思いますね。それに、稲垣さん、草彅さん、香取さんの三人の「新しい地図」の「武器はアイデアと愛嬌」って、この対談で言ってることのまさに要約じゃないですか。

清田 おおお! まさに! 素人くさい笑いの世界観に、最も嫌悪感を催すのはプロの作り手たちのはずですもんね。

西森 さっきも言いましたけど、テレビがコンプライアンスで昔のようなことはやれなくなっている中で――もちろんその状況を私がマイナスと捉えているわけじゃないです――「俺たちはそんなこと無視して過激なことやっちゃうぜ」っていう方向で視聴率を取ろうとするバラエティ番組はたまにあります。でもそれが支持されるかというと、そうじゃなかったりする。

 今のドラマでも、旧態依然の価値観、例えばアラサーの女子は焦って結婚したがってるだろうという価値観で物語を作っても受けなくて、むしろそんな価値観からこぼれた人を描いた『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のほうが高い評価を受けました。やたらと保守的なほうが本当は受けるんだっていう神話を信じてる人は多いし、CMなんかでも、もうそれで炎上を狙うようにまでなってしまったように見える事実もありますけど、実は新しい価値観のもののほうが、視聴者にも届くんじゃないかなと最近思っています。

清田 『逃げ恥』や『カルテット』(TBS系)のヒットもそうだし、『架空OL日記』のような作品が話題になるのもその兆候を表していますよね。お笑いの世界でも、ブルゾンちえみやカズレーザーという新しいジェンダー観を持った芸人が大ブレイクを果たしている。

 またNetflixなどで観られる海外ドラマには、PC的にもクオリティ的にも圧倒的に先を行ってる作品が目白押しです。そこではレズビアンもピルもタバコも宗教も女性の自慰行為も、ことさら特別なこととしてではなく、生活の中に存在する一要素としてごくナチュラルに描かれている。登場する男性たちのジェンダー観もかなり進歩的です。明石家さんまがNetflixをライバル視してと言うなら、海外ドラマのそういう部分を謙虚に学び、ミソジニーYouTuberを駆逐するような笑いを作ってくれたら、めっちゃカッコイイなって思います。

(構成/斎藤岬)

1 2 3

「ウッチャン、『逃げ恥』、『バイプレイヤーズ』…ポリティカル・コレクトネスの中で生まれつつある新しいエンタメ 西森路代×清田隆之(桃山商事)」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。