フェミニズム・性的マイノリティを攻撃する保守勢力は、20年前から変わらない【道徳的保守と性の政治の20年】

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保守勢力は、手を変え品を変え批判を続けてきた

 バックラッシュの初期は、男らしさ/女らしさ、専業主婦の役割の評価といったものが争点の中心とされてきました。例えば日本時事評論号外2002年6月1日号)では、男女共同参画は、男と女の一切の区別をやめるものであると主張して、ひな祭りの廃止、トイレやお風呂の男女別廃止、運動会や身体検査の男女別廃止などが起きると批判をしています。

 他にもリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)や性教育へのバッシングも盛んでした。こうした流れを受けて、20028月には中学生を対象とした性教育の副読本として配布された、財団法人母子衛生研究会の冊子『ラブ&ボディBOOK』が保守派の運動によって回収されます。なお『ラブ&ボディBOOK』や、日本女性学習財団が発行したジェンダーフリー教育の冊子『新子育て支援・未来を育てる基本のき』を国会で最初に問題視したのは山谷えり子さん(当時は民主党衆議院議員、現在は自民党参議院議員)でした。

 あるいは東京都の七生養護学校で行われていた性教育へのバッシング。そして20032月の、当時千葉県の知事だった堂本暁子さんがリプロダクティブ・ヘルス/ライツなどに力を入れ作ろうとした千葉県の男女共同参画条例が頓挫したのも、バックラッシュの事例に挙げられます。

 こうした動きには自民党も加担していました。自民党は「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム(PT)」(安倍晋三座長、山谷えり子事務局長)を作り、性教育やジェンダーフリー教育を批判しました。PTのウェブサイトには裸の男女の人形の写真資料が載せられているのですが、この人形は「性教育の際に、こんなけしからん人形を使っている!」と保守派が攻撃の際によく取り上げたものです。

 そして、2000年代中盤になると初期にはターゲットになっていなかった、性的指向や性自認を保守派は攻撃するようになります。

 2004年に、宮城県都城市で「性別や性的指向にかかわらず、すべての人の人権が尊重され」という文言が書かれた、当時としては非常に画期的な男女共同参画条例案が出されます。都会とは言えない都城市で、市民主導でこのような条例が生まれたことは大きなことでした。しかし、それにたいして統一教会系の『世界日報』が大規模な反対運動を行います。結果的には1票差で条例は可決するのですが、その後市長が代わり、2006年の市町村合併の際に、この文言は削除されてしまいます。

 統一教会はもともとはバックラッシュ運動にそんなに関わってきませんでした。なぜ統一教会が都城市の条例案にこれほど反応したかというと、「性的指向」という文言が入ったことが大きかったのです。当時の『世界日報』には、「ジェンダーフリー推進論者の三段階計画」ということで、条例が通ると同性愛者解放区の全国展開が起き、その結果フリーセックスコミューンになるとした図が書かれています。

保守勢力はアンチLGBT運動に力を入れだしている

 それでは現在はどのような状況になっているのでしょうか。

 2006年、第一次安倍政権のときに教育基本法が「改正」され、「家庭教育」の項目が加わりました。さらに2007年には「家族の日」が導入され、安倍政権は「家族」を前面に打ち出す改革を推し進めようとしました。2012年、第二次安倍政権になってからは、「女性活躍」「少子化対策」「女性の健康支援」「LGBT理解増進」といった形で、一見良さげにみえるけど、よく考えてみるとちょっとまずいんじゃないかという政策がいっぱい出てくるようになっています。

 特に女性活躍政策は、家族の支え合いを前提とし、三世代同居を打ち出すというものになっていますし、少子化対策も「みんなを結婚させよう」ということで、各地で行政が婚活に関わり、企業や団体、大学にまで「婚活メンター」を導入するような動きが出てきています。その際に性的マイノリティはどうなるのか、という視点は政府や自治体はまったく気にされていないようです。

 2015年には渋谷区で「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が可決します。これはメディアなどで「同性パートナーシップ条例」として報道されました。当時、渋谷を地元とする「頑張れ日本!全国行動委員会」や統一教会(現家庭連合)がこの条例への反対運動を行っていました。ここで興味深いのは、この年の3月に渋谷で行われた「頑張れ日本」の街宣に行き主張を聞いたところ、「同性愛者の人権は認めないといけません」みたいなことは言うんです。ただこの条例は、フェミニストの陰謀であり、最終的にはジェンダーフリー社会を目指すことを目的としているから阻止しなければいけない、と主張するんですね。同年4月の『世界日報』主催の集会で聞いた八木秀次さん(麗澤大学教授)の講演でも同様の主張をされていました。以前はジェンダーフリーが通ると同性愛解放区となり、 フリーセックスコミューンになると保守団体は主張していたのですが、現在はフェミニストがより悪の最終段階とでもいうような存在になっているようです。

 斉藤正美さん(富山大学など教員)の調査によれば、産経新聞は、どちらかというと政府の方向性に近く、経済振興政策としてのLGBT政策や女性活躍には現段階ではあまり批判をしていないそうです。でも、経済の為にいいから盛り立てようというアプローチであって、人権問題としては扱っていません。

 家庭連合は、「LGBTについて」と題された広報文書の中で、トランスジェンダーは「性自認」に関することで、医学上の問題である。レズビアン・ゲイ・バイセクシャルは「性的指向」の問題だから一つの概念で論じることは相応しくないとしています。さらに、宗教的に「会員に対しては同性愛・両性愛行為は『罪』として禁止している」としつつ、尊厳性や基本的人権は否定しない。LGBの人であっても「カウンセリング等を受けることを前提に、家庭連合に入会を許可しています」と言っています。一体どんなカウンセリングなのか気になりますが、とりあえず今はこのような主張のようです。

 そして家庭連合系の『世界日報」では、同性愛・両性愛・同性婚を一生懸命批判しています。『世界日報』の怖いところは、アメリカなど世界の動きに非常に詳しい媒体だということです。また、日本の地域の動きにも力を入れて批判しています。それだけ世界から地域レベルまで、様々な情報をもっているわけです。現時点では、家庭連合はトランスジェンダーはあまり批判の対象にはしていませんが、現在アメリカではトランスジェンダーのトイレ問題などが注目を集めており、提携する『ワシントン・タイムズ』紙の記事紹介という形で、トランスジェンダー批判記事が最近少しずつ増えてきています。今後『世界日報』の主張内容が変化していく可能性もあると思います。

 そして今、気になっているのは、これまで性的指向に関心を示していなかった日本時事評論社や日本政策研究センターが最近になって批判を開始していることです。

 いま一番政権に近いシンクタンクと言われる日本政策研究センターは、憲法問題と絡めて同性愛・両性愛・同性婚に関して批判を始めています。この団体は安倍政権の動向を見る上でも一番参考になるところですから、こうした批判が政策の中にどう反映されていくのか、非常に怖いと思っています。

同じ失敗を繰り返さないための検証を

 今日の話をまとめます。

 フェミニストが何を失敗したのかというと、そもそも男女共同参画社会とはいったい何なのか、という段階で議論を避けてしまったところにあると思います。さらに飯野さんがおっしゃっていたように、バックラッシュ側の批判に対応する際に、性別二元論に基づく主張を打ち出してしまった。またバックラッシュに対応するにあたって、同じ人たちがバックラッシュの主体となっていたにもかかわらず、その以前からあった、日本軍「慰安婦」問題へのバッシングと繋げて考え、対応せず、切り離してしまった点も問題だと思います。現在においても、当時のフェミニストの対応の検証が不足しているのが実情です。

 今日お話したとおり、いまは当時バックラッシュを精力的に行っていた団体が、性的少数者の政治と対立しつつある状況だと思っています。そうした中で人権よりも経済的利得を押し出したLGBT政策を政府や自治体は打ち出しています。はじめに紹介した中島通子さんが言われていたように、もし人権と経済的利得が矛盾するようになったとき、後者が優先されるかもしれないことは気をつけないといけないポイントでしょう。

 性的少数者の政治に対する批判に、どのような対応をするべきなのか。バックラッシュのときと共通する動きが非常に多くある中で、バックラッシュを振り返り、検証し、同じ失敗をしないように対抗することがいま必要とされていることだと思います。
(取材・wezzy編集部)

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