社会

女性たちと性的マイノリティは共闘できる。「道徳的保守と性の政治の20年 LGBTブームからバックラッシュを再考する」レポート

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「LGBTブーム」に乗るべきか、乗らないべきか?

 「LGBTブーム」のなかで、人権より経済が優先されかねないような発言が、LGBTコミュニティのアクティビストからあがることもあります。

 性的マイノリティの人たちのなかで、収入の高い人たちを「ピンクマネー」「レインボー市場」と呼ばれる「LGBT市場」として、学歴や能力が高い人たちを労働資源として見る向きがあります。こうした経済的な有用性、つまり「お金になる」という発想のもとでは、権利保障がバーターになる可能性が生まれます。このとき、経済格差が権利の差をもたらす可能性を清水さんは懸念します。

 お金にならない人は後回しという事態は、例えば「渋谷区パートナーシップ証明書」ですでに表れており、この制度はお金のかかる公正証書の提出が求められています(しかし異性間の婚姻制度と同等ではありません)。

 現状、性的マイノリティの中でもゲイの男性が主に社会進出が進んでいると言えるのではないでしょうか。そもそも男女間の賃金格差からして、シスジェンダー(性別に違和感を抱かない状態)であるゲイ男性より、レズビアン/バイセクシュアルの女性のほうが平均的に賃金が低いと考えられます。またトランスジェンダーの場合、見た目のうえで自身のジェンダーを隠すのが難しいという点で、就労の困難が想定できます。しかし、「レインボー市場」として規模を算出する電通のような広告代理店は、こうした性的マイノリティ間の格差について検証しているとは言えません。

 確かに、お金がなければ生きていかれない以上、経済は誰にとっても重要な課題です。しかしこうした人たちが「経済的に有用」と見なされないとき、権利が保障されないのだとしたら、それは平等とは言えません。

 「LGBTブーム」の背景には2020年の東京オリンピック/パラリンピックがあります。国連では性的指向や性自認に対する暴力や差別からの保護を採択しており、またオリンピック憲章でも差別は禁止されています。2020年のオリ・パラに向けて、日本国内の性的マイノリティの権利保障が目指されるべきということで、ブームが起きていると言えますが、逆を言えばタテマエで終わる可能性もあります。

 経済的側面を打ち出すことで広まったとも言える「LGBTブーム」ですが、じゃあ乗らないほうがいいのか? 乗らないと人権問題の推進はむずかしいのでは? という質疑もありました。これは「乗る・乗らないの二択で考えられるものではない」と清水さんは答えます。そもそも権利保障を推進しようとする側は「LGBT」について言及せざるを得ず、巻き込まれてしまう側面があります。しかし「ブームが来ているから今乗らなきゃ」と前のめりになってしまうと、抜け落ちてしまう議論がある可能性には注意したほうがいいと、清水さんは付け加えます。この点は飯野さん、山口さんの発表でも指摘されたように、男女共同参画社会基本法の際に、するべき議論が抜け落ちたまま乗っかってしまった結果バックラッシュにあって後退を強いられた、女性運動の歴史にも通じるのだ、と。

 飯野さんからの応答で、2020年オリ・パラに向け、経団連によるダイバーシティ・インクルージョン(多様な人々の包摂)に関する提言や、厚生労働省から、社内規定の中に性的指向や性自認に基づく差別やハラスメントなどを禁止する条項を盛り込む指針が出ている、という報告がありました。大企業の一部のみが対応しているのが現状とは言え、飯野さんはこうした動きに一定の評価をしながらも、その一方で企業側としてはイメージ作りのために利用している側面を忘れてはならないという注意も喚起しています。

 例えばある企業が「LGBTに優しい」とか「女性の活躍を推進している」と看板を立てているとき、内部で差別やハラスメントの存在があっても、「企業はがんばって善処しようとしてくれているのだから、ハッピーでなければいけない」というプレッシャーを生む可能性があるという、海外の事例があるそうです。つまり「いかに差別が語れなくなるか」というジレンマを軽視してはいけない、ということです。

 また、労働現場における権利保障と言っても、先述のとおりシスジェンダー男性はシス女性やトランスジェンダーより平均的に恵まれていると言え、どの属性の人たちの権利保障を優先するか? という課題も生まれます。客席から、そもそも労働者の権利が削がれている現状が指摘されましたが、その問題と、いまだはびこる性差別の解消や、性的志向や性自認にまつわる就労差別は並行して考えられるべきだと思います。とは言え、「男も女も、シスジェンダーもトランスジェンダーも、みんな労働においてはたいへん」というような形で一般化されると、どういった立場の人が優遇されているか? どういうときどういう立場の人に差別や不平等が起きるのか? という問いが抜け落ちてしまうので、気をつけなければいけません。

 遠藤まめたさんの発表のとおり、15年前のフェミニズムへのバックラッシュ派が、現在の性的マイノリティの権利運動にも反発しています。つまり、それだけ草の根保守の反発の動きには注意が必要で、フェミニズムが潰された状況と同じことが繰り返されてはいけない、と清水さんは言います。2020年以降「お金にならない」と判断され、関心が薄れる可能性が高く、ブームが終わると予測されます。使っているつもりが使われないように注意を払うという清水さんの提言には、バックラッシュの痛手からの学びがうかがえ、性的マイノリティの運動にも無関係ではないと考えました。

「男性仕立て」のメディアが報じないこと

 女性問題や性的マイノリティ問題に関するさまざまなテーマが広く一般に共有されるためには、メディアの力は軽視できません。

 現在、田嶋陽子さんについての研究をされている山口さんによると、90年代前半から10年間ほど田嶋さんはテレビ番組に出続けました。田嶋さんは叩かれていたというイメージが強くある人もいらっしゃるでしょうが、実はポジティブに扱われることもあったそうです。けれど、現在はテレビにおいてフェミニズムやジェンダーの話、女性問題などは話題にしにくいといいます。また、メディア批判や抗議をするとバックラッシュにもあいました。こうした流れ(例えばハウス食品のラーメンのCMで「私作る人 僕食べる人」というコピーへの抗議行動)は70年代から現在に続いている、と山口さんは続けます。一方、女性学などアカデミアからはこうしたメディア抗議運動は「モグラ叩きだ」とあまり評価されてこなかった面もあったそうです。バックラッシュ側は過去からずっと変わらず草の根的に動いており、対抗する側も地道に向き合わないと、と市民からのメディア抗議の積み重ねの重要性を山口さんは指摘します。

 今年の1月、トランプ政権が誕生したときアメリカでは各地で「ウィメンズマーチ」が起こり、ワシントンでは大規模な集会も行われ、白人女性のみならず有色人種やトランス女性も登壇していました。「ウィメンズマーチ」は、妊娠中絶を支援するNGOへの助成を禁じる大統領令へのトランプの署名に対し、強く抗議しました。女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)に大きな影響のある問題だからです。しかし、山口さんもツイッターに投稿されていたように、日本のニュースではほぼ黙殺されていたという印象があります。

 新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどメディアでは、ジェンダーやセクシュアリティの別なく共通の課題として、経済や外交といった大文字の政治が取り上げられがちです。これは、メディアの内側はそもそも男性が多い、つまり「男性仕立て」の価値観に基づく判断になる可能性があります。

 例えば、日本新聞協会によると女性記者も増えているようです。ただ、保守としてバックラッシュにも関与した櫻井よしこ氏のような存在もありますし、小池百合子氏はかつて、経済政策のもと国が家族に干渉する政策のための、自民党内の「婚活議連」で代表を務めていました(余談ですが、現在も「希望の党」で「ダイバーシティー(多様性)社会の実現」をうたう一方で、排外主義や歴史改竄に加担していると言えます)。メディア従事者にしろ政治家にしろ、女性なら誰でもいいから増えればいいというわけではないでしょう。

 しかし、構成員の3割以下だと女性に対する負のレッテルを気にしたり、女性同士で連携が取れない、という議論もあります(三浦まり『日本の女性議員 どうすれば増えるのか?』 (朝日新聞出版、2016) )。 こうしたジレンマを抱えながら、先述のとおりジェンダーやセクシュアリティに基づく差別が解消されているとは言えない現状の中、女性やLGBTなどマイノリティに関する社会問題もニュースとして価値のあるものだと、どのように声を届け、広げていくか? 課題はまだまだあります。

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