社会

ハリウッドの怪物プロデューサー、ワインスタイン怒涛のタイムラインと、女性たちの「#Me Too」

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映画界の寵児、ワインスタイン

 ハーヴェイ・ワインスタインは1952年にニューヨークで生まれている。大学を卒業後、1970年代に弟のボブとともにロックコンサートのプロダクション会社を立ち上げる。兄弟揃って熱心な映画ファンであったため、1979年にコンサート・プロダクションで得た資金を元にインディペンデント映画の配給会社ミラマックスを設立。

 ミラマックスは1980年代に順調に成長し、『セックスと嘘とビデオテープ』『クライング・ゲーム』などをヒットさせる。1990年代に入ると同社の成功ぶりをみたディズニーが8,000万ドルで買収するが、ワインスタイン兄弟はそのまま社を率いる。1994年には同社初の大型予算作品、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』が大ヒット。1997年に『イングリッシュ・ペイシェント』がアカデミー賞最優秀作品賞を獲得。これによりハリウッドで押しも押されもせぬ地位を獲得し、『グッドウィル・ハンティング』、ワインスタインの被害者のひとりであるグゥイネス・パルトロゥ主演の『恋におちたシェイクスピア』などを連発。

 2005年、ワインスタイン兄弟はミラマックスを辞し、TWC(ザ・ワインスタイン・カンパニー)を設立。以後も怒涛の勢いで映画、テレビ、舞台の作品を制作し、『英国王のスピーチ』(2010/アカデミー賞12部門ノミネート、4部門受賞)、『アーティスト』(2011/同10部門ノミネート、5部門受賞)、『世界にひとつのプレイブック』(2012/同賞8部門ノミネート、1部門受賞)、『ジャンゴ繋がれざる者』(2012/同5部門ノミネート、3部門受賞)、『LION/ライオン~25年目のただいま~』(2016/同6部門ノミネート)など、アカデミー賞の常連となっていた。

 ワインスタインは映画人、ビジネスパーソンとしては類い稀な才能を持っていたと言えるが、人格と行動には大いに問題があった。TWCの本社はニューヨークにあるが、ワインスタインはハリウッドやイギリスの支社にも頻繁に出掛けていた。またカンヌ映画祭の時期にはフランスの、サンダンス映画祭の時期には開催地ユタ州の定宿に宿泊した。ニューヨークタイムスの記事によると、それぞれの地で気に入る女性を見つけては、それが若い女優であれ、脚本家であれ、または自社社員であれ、ホテルにミーティングと称して誘い出し、あらゆる性的ハラスメントをおこなっていたとある。

 ニューヨークタイムスの記事が出た後はワインスタインの被害者であったことを名乗り出る女性が相次ぎ、現在の時点でその数は50人を超えている。

オバマ夫妻とも交流、長女はインターン

 巨万の富が動く映画産業の大物たちは、政治家とも懇意になる。ワインスタインは政治的には非常にリベラルな民主党員であり、民主党の政治家への献金や数々のチャリティへの寄付をおこなっていた。ヒラリー・クリントン前大統領候補、オバマ元大統領にも多額の政治献金をしており、ホワイトハウスに招かれることもあった。そうした繋がりから、オバマ元大統領の長女で、以前よりショービジネスに強い関心を抱いていたマリア・オバマは今年初頭、TWCでインターンを務めた。

 こうした経緯からオバマ夫妻とヒラリーはニューヨークタイムスの記事掲載から5日目にそれぞれ声明を発した。どちらも「女性へのこうした行いは許せない」という内容だった。マリアの母親であるミシェル・オバマがワインスタインの所業を認識していたのかは不明だ。

 同じ日にワインスタインの妻でファッション・デザイナーのジョージナ・チャップマンが離婚訴訟を起こしている。その際の声明には「犠牲者の女性たちを思うと心が痛む」「幼い(4歳と7歳)子供のために夫の元を去る決意をした」とある。ジョージナのブランドはウェディングドレス、婚約指輪を扱っているが、顧客からのキャンセルが続き、今冬の新作発表はすでに中止されている。

 ワインスタインと縁の深いセレブはコメントを発するのも苦しい様子だ。『パルプ・フィクション』から最新作の『ヘイトフル・エイト』まで長年にわたってワインスタインと組んできた映画監督のクエンティン・タランティーノに対し、「なぜコメントを発しない?」という声が高まっていた。

 そのプレッシャーゆえと思われるが、13日にタランティーノの友人である女優アンバー・タンブリンがタランティーノのメッセージをツイートした。いわば代筆である。そこには「ワインスタインとは25年間の友だ」「先週は心が痛んだ」とあり、「この痛み、感情、怒り、そして思い出を整理するにはもう数日かかる。それから公的に語る」とあった。

 ドキュメンタリー監督のマイケル・ムーアも窮地に立たされている。11月公開予定のアンチ・トランプの新作『Fahrenheit 11/9』も過去の数作と同様にTWC配給だが、そのTWCが売却されてしまう以上、先行きが見えない。

 それでもタランティーノと同じ13日にフェイスブックに長文を寄せており、いかにもムーア監督らしく、4つの提言となっている。「女性に性的ハラスメントをおこなったことのある男は会社を辞めろ」「女性は被害をスマートフォンで録画、録音しよう」「女性を平等に扱う男性は、性的ハラスメントを見たら加害者と対峙せよ」「ハリウッドのスタジオは、女性やアフリカン・アメリカンの上級職を雇用せよ」

 映画監督ウディ・アレンは「気の毒な女性たちにとっては悲劇だ」と言いつつ、「魔女狩りの雰囲気だな」と口を滑らせ、早々に謝罪のはめとなった。アレン自身、1993年に当時7歳だった娘への性的虐待疑惑で強烈にバッシングされた経験を持つ。その件で孤立したアレンに作品制作の場を提供したのがワインスタインだった。ミラマックスでの『マイティ・アフロディーテ』は大成功したが、主演のミラ・ソルヴィーノは同作のプロモーション中にワインスタインにハラスメントを受けたと語っている。

 ちなみにワインスタインについての長文記事をニューヨーカー誌に寄稿したジャーナリストのローナン・ファロウはアレンの息子だ。先の妹への性的虐待問題では妹を全面的に支持し、かつ養子として韓国から迎えられた姉が成長したのちに養父であるアレンと恋愛関係となり、母親(女優ミア・ファロウ)を傷付けたことからアレンとは絶縁状態にある。なんとも複雑な様相だ。

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