異性装で子育て、血の繋がらない家族、同性愛。漫画『ニコイチ』が私たちに教えてくれる「ゆるやかなダイバーシティ」

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 私はオタクであり、映画やアニメ、音楽、ゲームなどサブカル全般、そのなかでも特に漫画が大好きで、男性向け女性向け、ジャンル問わず面白いと思ったものは読みます。漫画をはじめ、サブカルやエンタテインメントから学んだり、励まされたり、影響されたり、きっかけを得たりすることがたくさんあります。考察したり、読み取ったものを共有したりすることで、話した人の新たなパーソナリティを知ることもできるのです。

 wezzyでも私の好きな作品を紹介したいと思います。今回は金田一蓮十郎さんの漫画『ニコイチ』についてお話します。

 作者は1997年に『ジャングルはいつもハレのちグゥ』でデビューした女性作家です。2001年にアニメ化もされたので見ていた人もいるのではないでしょうか。

 その後の『ゆうべはお楽しみでしたね』では主人公とオンラインゲームでつながった友人たちとの交流やルームシェア、『ラララ』では初対面の女性と契約結婚をし夫婦について考えていく主人公……というように、いわゆる普通とされているものから少し外れたところにある人物や出来事を描くことが多く、ジェンダー感や既存の人間関係のあり方をゆるやかに考え直せる作品群を発表しています。といってもかわいらしい絵柄で、男女問わず抵抗なく読めるのではないかと思います。

主人公を取り巻く誤解や偏見

『ニコイチ』は金田蓮十郎作品のなかでも特に複雑で多様な人間関係や家庭環境のなかで、ストーリーが展開されていきます。

 主人公の須田真琴は、母親を亡くした血の繋がらない息子・崇のために、男性として会社員として働きながら、家では女装をして超美人なお母さんを演じる、という二重生活を送る29歳の男性……そんな一度聞いただけでは意味のわからない、盛りだくさんな設定からスタートします。

 真琴は実家の家族以外には女装を隠しているため、男性姿を知っている人は彼が女装していることを知らず、ご近所や息子の学校など女装の母姿を知っている人は男性だとは知りません。

 そのため片思いをしている同僚の菜摘さんには、女装姿で先に出会い、同性だと思われたまま好かれ告白されて交際することになりますが、肝心の男性姿では嫌われてしまい、同一人物とは気づかれないまま……というさらにカオスな状況が展開されていきます。

 菜摘さんの実家も、両親が再婚で弟は連れ子と、家庭環境がなかなか複雑。ほかにもバイ・セクシャルの人物や、セックスや恋愛、結婚についての価値観がさまざまで一癖も二癖もある個性的な人物が多く登場します。作品中にはいくつも問題や悩みが出てくるのですが、それ自体はまったく軽いものではありません。

「主人公が女装をする」というコミカルに見える面も、複雑な背景があります。崇の母である恋人がシングルマザーであることを隠して自分と交際していたことを、彼女が事故で亡くなったときに初めて知った主人公。恋人が亡くなった悲しみにひとりで耐えられず、血の繋がらない息子を引き取ることにしました。

 同じように母親がいなくなったことに耐えられずに泣きつづける息子とどう接していいかわからず育児ノイローゼになっていたところ、母親の化粧品を使いお母さんになりきるという突拍子もない解決策に出たのです。

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