女性の痴漢被害を笑い、男性の被害者意識だけを叫ぶ「男性のための痴漢対策ワークショップ」のおぞましさ

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 一連の発言には、言外に「男性がきれいだと認めた女性が痴漢に遭う」「痴漢されないのは、女性として恥ずかしいこと」というニュアンスが含まれている。ニコニコ動画では視聴者のコメントが画面に流れるが、そこには「痴漢は(女性にとって)ステータスなんだ」というものも見られた。

 具体例を挙げればキリがないが、最初から最後まで「痴漢とは、暴力行為である」という要素が一片も見られなかった。痴漢被害がどこまでも「笑い」として消費され、痴漢に遭わないことまでも「女性として認められていないから」と嘲笑される。登壇している彼らは、痴漢行為をしたことはないという。たしかに直接的な加害者ではないだろう。が、アカウントを持っていれば誰でも視聴できる番組で大々的にセカンドレイプを展開することが“加害”にならないとは、筆者はまったく思わない。そして、セカンドレイプ加害者としての当事者性は、誰にも見られなかった。弁護士の男性も一緒に笑っているのは、なんともグロテスクな光景だった。

 同ワークショップのメインテーマは「痴漢冤罪被害に遭わないために」であり、そちらに多くの時間が割かれた。女性の被害には1ミリの共感も見せず、さんざん笑い倒した登壇者らは、冤罪については神妙な態度で弁護士の解説に耳を傾け、その実態を聞かされるたびに「こえ~よ~」「(男性専用車両が)本当にほしい、冗談じゃなく怖いんです」と声をあげる。

自分の被害にだけ、敏感。

 その際、「自意識過剰な女がさわられてもいないのに騒ぐことで、自分たちが冤罪被害に遭う」といった内容の発言が複数回あった。冤罪については女性=加害者、男性=被害者として考えていることがよくわかる。

 痴漢冤罪については年間どのくらい発生しているかの調査がなく、ゆえに、そのうち「被害の事実はないにもかかわらず女性の勘違いから発生した事案」が占める割合も、「明らかな被害があり、そのうえで加害者を取り違えた事案」が占める割合もわからない。後者の場合は、女性=被害者である。にもかかわらず、被害者と加害者を単純に男女に振り分けることには疑問を感じずにいられない。ちなみに、痴漢問題を取材していると「自分が犯人だと特定されないよう、被害者とのあいだにもうひとり第三者をはさんで痴漢行為を行う加害者」は少なくないと聞く。その場合、誰が冤罪の元凶なのか。

 痴漢にかぎらず、冤罪による被害は深刻で、これから社会全体で考えていくべき問題である。そのためにも、他者への被害にはどこまでも鈍感になれる……どころか笑いものにし、その加害者性には蓋をしつつ、一方で自分が被るかもしれない被害だけはセンシティブかつ声高に訴える、という一部男性の態度はまったく得策ではないのではないか。今後もし冤罪問題を考える番組が再び作られるしたら、せめて“被害”ということを同じ重さで考えるところからスタートしてほしい。誰かに加害することで自分の被害を強調する必要性は、どこにもないのだから。

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