「LGBT先進国」ではない日本が果たせるかもしれない役割【第18回:トランス男子のフェミな日常】

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 「いま何をしたら助けになりますか?」。3年前、知人経由でウガンダのLGBT活動家にこう尋ねた。ちょうどウガンダが世界で最も過酷と言われる反同性愛法案検討している時期だった。返信には「日本政府が外交の場でウガンダ政府と交渉するよう働きかけてくれないか」と書かれていた。

「この件について日本の支援は重要です。日本は“西側”とはみなされていないから、日本が言うことについては、政治家も聞く耳を持つでしょう」

 昨今LGBTをめぐる情勢は二極化している。アメリカで同性結婚が認められたのと同じ週、トルコではプライドパレードがめちゃくちゃにされていた。西洋では権利擁護が進むが、チェチェンのLGBT弾圧など、むしろヘイトが増している地域もある。国際NGOであるILGAの調べによれば今年5月時点で、世界の72か国で同性愛は犯罪、うち8か国では死刑に相当する。

 二極化の背景のひとつには、LGBTをめぐる議論が「代理戦争」になっていることが大きいようだ。おれたちにはおれたちの伝統や文化があるのに、いつも西側のおまえらは自分たちが優れているみたいに振る舞う。もうたくさんだ。そんな声が世界各地であがっている。女性を守れという主張が反イスラムに結びついたように、反LGBTであることは文化的に劣っているとのメッセージが主に西側から発せられていると受け止めていっそう頑なにLGBTヘイトを強めてしまう。

 ウガンダの場合、そもそも同性間の性行為を禁じる刑法は植民地時代にイギリスによってもたらされたものだ。 かつての宗主国は足を洗い、今度は先進国の一員としてウガンダを非難する。だからこそ冒頭の質問に対して「日本政府」と活動家は答えたのだった。アジアにある白人の国じゃない日本が、もしも力を貸してくれたら。

 しかし、日本政府が果たせたかもしれない役割への期待は今のところ裏切られ続けている。今秋、同性愛などを理由とする死刑の廃止を求める国連決議で、日本政府はアメリカと共に「反対票」を投じた

 外務省の大使は反対理由としてこの決議が日本の死刑制度の廃止やモラトリアム導入につながるおそれがあったためと釈明し、性的指向を理由にした死刑に我が国が賛成しているかのような議論は誤解だと強調している(国連決議の際、「死刑廃止・モラトリアムの義務づけ決議ではない」と決議提案国は説明していたようだが)。だとすれば日本政府は海外に向けてこれまで以上にLGBTの迫害に反対であることを示す必要があるだろう。このままでは、日本政府がすでにあるLGBTへの迫害に関して見殺しを決めた事実しか残らない。

 もともと私がウガンダのLGBTに関心を持ったのは、2011年頃に、海外のニュースサイトであまりにひどい状況を知ったからだった。ウガンダでは、魔女狩りのように地元紙で同性愛者の名前や写真がどんどん晒され、暴力が頻発していた。「今に殺されそう」というニュースは、すぐに殺人事件報道変わり、私がやれたのはパソコンの前に座ってオンライン署名のクリックをするだけ。無力感といったらなかった。

 その後、仲間たちとウガンダのLGBTを描いたドキュメンタリー映画『Call Me Kuchu』を日本で上映すべく字幕をつけた。映画がきっかけで、今春からはケニアのカクマキャンプにいるウガンダのLGBTI難民支援プロジェクトがはじまった。WFPWorld Food Program)から供される11食の粗末な食事に、日本のプロジェクトからの援助で乾燥トマトや肉が加わった。テントに灯りがついた。

 今でもほとんどやれることはない。しかし、何もできないということもない。婚姻平等もLGBTへの差別禁止法さえもない日本だが、だからこそ世界中でLGBTの人々に行われる迫害に対して、単に「非人道的行為をいさめる」という非西洋的なアプローチもあり得るのでは、といまだに期待するのは、あまりにナイーブだろうか。

※カクマキャンプの難民支援に関心のある方はぜひこちらからご協力お願いします。

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