『コウノドリ』で描かれた「無痛分娩」への注文と、何より気になった「アザ」の話

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Photo by Greg Grossmeier from Flickr

 私は無痛分娩推しなのだが、日本ではアンチ勢力が圧倒的に強いため、全分娩の5%程度と普及率が低い。というわけで、総合病院の産婦人科を舞台にしたドラマ『コウノドリ』(TBS系)の第3話を、無痛分娩がどのように描かれるのか確かめたくて見た。簡単にストーリーを紹介しながら「無痛分娩」について考えたい。

 主人公の産婦人科医・鴻鳥サクラ(綾野剛)は、心疾患のある妊婦・山崎麗子(川栄李奈)に、心臓への負担が少ない無痛分娩を勧める。しかし、人から聞いた話に惑わされやすい麗子は、出産当日になって「自然分娩」がしたいと言い出した。

「友達に言われたんだけど、無痛分娩で産むのは、赤ちゃんより自分のことが大切なんだって。楽して産むんだからおっぱいも出ない。自然で産んだ母親の愛情には敵わないから可哀想だって」

 サクラに、「妊娠出産は11人違います。考え方も人それぞれです。自然で出産する人もいれば、自分から希望して無痛分娩で出産する人もいます。(中略)僕は産科医なので、お友達のデタラメ話で2人(麗子と赤ん坊)の命を危険にさらすことはできません」と優しく諭された麗子は納得。痛くない出産に大いに満足したのだった。

 サクラは、「楽して産むんだからおっぱいも出ない」「自然で産んだ母親の愛情には敵わない」という意見を「デタラメ話」と切って捨て、麗子の夫(喜矢武豊)も「痛みがなきゃ愛情が生まれないなら、俺たち男はどうやって父親になればいいんだよ」と言っていたので、無痛分娩を否定的に描いていはいない。しかし推しの立場からすると、無難すぎて物足りなかった。

 そもそもサクラが勤務する病院は、「心疾患とか必要な理由のある妊婦さんだけ」しか無痛分娩を選択することはできない。痛みを避けたいというのは、「必要な理由」とは見なされていない。

 産科医たちの雑談シーンで、研修医の赤西吾郎(宮沢氷魚)が、無痛分娩の割合は最近増えていて、「時代のニーズ」ではないかという実に真っ当な意見を述べたのだが、先輩医師の四宮春樹(星野源)が、「じゃあお前、産科麻酔の専門医やるか? 毎日引っ切り無しに搬送があって、予期できない陣痛に備えて麻酔を始めて管理していく。どうやったら全部の病院でそれができると思う? ちょっと頭使えよ」と言い放ち、赤西はいじける。

 たしかに、次々と病院へやってくる産婦たちの麻酔を管理する体制を整えることは、一朝一夕にできることではない。だからこそ、無痛分娩に限っては「原則的に計画分娩(あらかじめ出産日を決めておく)」としている産院が多い。そうすれば、「予期できない陣痛に備え」る必要がない。

 予期できる陣痛にするためには、自然分娩派には評判の悪い陣痛促進剤を使わなければならないが、そうすることでもっとたくさんの産院で無痛分娩ができるようにもなるのだ。

 今春以降、無痛分娩の死亡事故が相次いで報道されたが(陣痛を経て母親になるという無意味な精神論が、無痛分娩の普及を阻み、事故を招いている)、いずれも無痛分娩に不慣れな病院で起きた事故だった。そうした現実を踏まえての四宮のセリフなのだろうが、もう少し丁寧に、より多くの産院で無痛分娩ができる方向性にも触れてほしかった。

 また、このドラマに限ったことではなく、世間一般でもそうなのだが、無痛分娩に対し、麻酔を使わない分娩を「自然分娩」と呼ぶことにも違和感を覚える。つまり無痛分娩は「不自然分娩」なのだ。こうした捉え方がされている限り、無痛分娩に対する抵抗感はなかなか解消されないだろう。

 ところでこの回では、「ヒューマン医療ドラマ」らしからぬセリフのやり取りがあった。

 麗子を人の話や迷信に惑わされやすいキャラクターとして描くための、あくまで本題の前提にすぎないシーンである。

麗子「先生、私、火事見ちゃった。(中略)あとでばあちゃんに聞いたら、妊婦が火事を見たら、アザのある赤ちゃんが生まれるって。あたしもう眠れなくて」
サクラ「それ、迷信です。火事を見たことより、睡眠不足の方が心配です」

 出産にまつわる迷信として、しばしばこうした取り上げ方をされる「妊婦が火事を見ると赤ん坊にアザができる」という話。

 アザのある赤ちゃんが生まれることは、そんなに問題なのだろうか?

 人の外見を重視することは愚かなことであるという感覚が、社会全体に浸透してきているような気がしていたが、それはあくまで表面的なことにすぎないということを、こうした何気ないシーンが教えてくれる。

 無痛分娩のことより、こっちの方がよほど気になった。

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