生まれつきの茶色い髪に「黒染め」を強制~教育の剥奪、人権侵害、そして根深い差別

文=堂本かおる
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Photo by Ilianna López from Flickr

 

 大阪府立の懐風館(かいふうかん)高校の女生徒が、「生まれつきの茶色い髪を強制的に黒く染めさせられ、不登校となった」として、損害賠償226万円を求めて府を提訴した。

 昨年、東京で起こった「地毛証明書」問題と同様、この件にはこれまで日本で見過ごされてきた多くの問題がいくつも含まれている。特殊な学校で起こった特殊な事態と捉えず、この件を今後多様化せざるを得ない日本を考え直す材料とするために、問題点をひとつずつ切り出してみる。

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学校側の思考停止

・同校が入学時に配布する「生徒心得」に「パーマ、染髪、脱色は禁止」の記載。
・学校側「たとえ金髪の外国人留学生でも規則で黒く染めさせる」の発言。

 「髪を染めることは禁止」だが、「金髪でも黒く染めさせる」と、これほどの齟齬を堂々と披露している。学校とは教育者の集団だが、まともな読解能力、思考能力のある教師はいないとみえる。

 これは瑣末な揚げ足取りではない。学校側の本音は「全校生徒の髪を黒一色に揃える」ことであり、例外を許さずに黒一色とするために「染めてはいけない生徒」と「染めなければならない生徒」の両方が出てくるのだ。染めること自体の是非など当初から考えてはいない。

 では、なぜ生徒全員の髪が黒でなければならないのか。今回の事件を取り上げた記事にその理由が記されたものは見当たらなかったが、日本では一般的に「黒髪=まじめ、茶髪=不良」のイメージが浸透しているためと思われる。茶髪を嫌がる企業があり、学校側は就職に有利となるよう黒髪を強制するという説を見掛けたが、もし事実なら、企業も「黒髪=まじめ、茶髪=不良」の偏見に取り憑かれていることになる。

健康被害・虐待

 報道によると、生徒は通常の髪染めをはるかに上回る頻度で黒染めを強要されたために頭皮がかぶれ、髪も相当に傷んだとある。また、学校側による度重なる「指導」の際に過呼吸になったとも書かれている。もはやこれは教育機関による虐待と言える。

教育機会の剥奪

 こうした経緯から髪を真っ黒に染めることを止めた生徒は、文化祭や修学旅行への参加を許されなかった。あげくに昨年9月に「黒く染めないなら学校に来るな」と言われ、以後、登校していない。事実上の退学処分だ。

 未成年、つまり法的に「子供」である高校生に、健康被害が出る可能性のある髪染めを極端な頻度で強要し、本来なら一生の思い出になり得る学校行事から締め出し、最後は教育を受ける機会を取り上げてしまっている。子供を心身・学力ともに健全に育てるという教育機関の使命と相反する「子供の破壊」をこの学校は徹底しておこなっているのである。

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