震災で「人は死んでしまう」と知ったから、進路を変えて好きなことをしている/上京女子・ケース7

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Photo by 赵 醒 from Flickr

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「化粧ってちょっと苦手で」

 洗練された横顔で金髪のショートヘア、シンプルな服を着た女性・サヤはそうつぶやいた。これから友人のライブに行くという彼女は、3年前に宮城から上京し、東京に住んでいる。

 宮城にいる時は教師志望で、教員免許も取得しているが、今の彼女は毎週東京のライブハウスでステージに立ち、訴えるように叫んでいる。

 サヤは2011年311日に起きた東日本震災の被災者のひとりで、震災は彼女の人生を大きく変えた。

「震災がなかったら、今頃宮城で先生をしていたと思う」

 何が彼女を東京へと引き寄せたのだろうか。

今日の上京女子・サヤ(26)

今日の上京女子・サヤ(26)

今日の上京女子/ サヤ 26才 歌手

 サヤは、Marmelo Brewery(マルメロブリュワリー)というバンドのボーカル兼ギターを担当している。鮮やかな金髪の彼女が「元教師志望」だというのは不思議な気がした。

 大学でバンドを組んでいたものの、自分がプロ志望になるなんて、考えてもいなかったという。そんな彼女を変えたのは、あの震災だ。

母親を亡くし「人間ってすぐ死んじゃうんだ」って気が付いた

Marmelo Brewery(マルメロブリュワリー)

Marmelo Brewery(マルメロブリュワリー)

 サヤは、父・母・妹の4人家族。母と妹の2人は津波の濁流にのまれた。妹はすんでのことろで救助されたが、母親は帰らぬ人になってしまった。ある日いきなり、家族がいなくなり、友人もたくさんいなくなってしまったそう。

「『人間ってすぐ死ぬんだな』って思った。だったら絶対に好きなことを今したほうがいい。いつ死ぬかわからないから」

 サヤは教師になることを辞め、大学卒業後は就職活動をせずに上京。すぐに、大学の友人の縁でMarmelo Breweryのメンバーと出会い、バンドを結成した。

「東京じゃなくても良かったのかもしれない。とにかくいろんな人に出会えて、刺激がもらえる場所に行きたいと思った」

自分の居場所はどこにある?

 とはいえ、すぐにバンドだけで食べられるようになるわけもなく、都内のビールバーでアルバイトをしながら生活している。バンドで食べていきたいという想いはありながらも、どうやって音楽活動を続けていくべきか、悩みは尽きないそう。そして、「一番大事なものは音楽」とはっきり言う彼女だが、同時に「今は自分の居場所がどこか、はっきりわからないから悩む」と言う。

「趣味程度でバンド活動をして成功するパターンもあるし、がむしゃらに活動するだけが道じゃないんじゃないかとも思って」

 この連載のテーマは「上京している女子について」だが、「上京している女子と上京していない女子、何か違いはあると思うか」という問いかけに迷いなくこう答えた。

「大事なものが違うんじゃないかな。もしかして、地元に残って『他の場所に行こう』『探求しよう』と思わない人たちは、大事なものがわかっている人が多いのかも。私は、上京して大事なものを見つけたし。今は音楽をできる場所を探して、うろうろしているところ」

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