痴漢に遭った被害者が知る実態と、世間でイメージされる痴漢は全然違う

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 イベントでも斉藤さんは「相手をいじめている気持ちがあるときは勃起していない」「痴漢は勤勉で真面目なので、スキルを磨く」「痴漢した人数や回数を正の字で記録する人もいる」「事前の情報収集をしっかりする」と話しています。

 私が警察に通報したときの痴漢加害者は、初犯ではなく再犯ばかりで、執行猶予中の人もいれば、遠くからわざわざ痴漢をしにその電車に乗りにきた人もいました。この体験と照らし合わせると、痴漢は依存症だという話は納得がいきました。

 今はあまり利用しないのでわかりませんが、当時、埼京線のターミナル駅のホームで観察していると、必ずといっていいほど品定めしている人がいて「痴漢だろうな」となんとなくわかりました。現にそうした人は、乗車時にうしろから押し込んでくると同時に激しく触ってきました。「痴漢をする」という明確で強い意志がないとできないことだと思いました。きっと痴漢をしやすい路線の情報を収集しながら身につけ、スキルを磨いてきた結果なのでしょう。

「冤罪が怖い」はわかるけど。

 私は通報した加害者とのあいだに、示談が成立したことがあります。それを受けて学校で「痴漢冤罪で金を稼いでいる」と噂が立ち、嫌がらせされたこともありました。また大学生のころ、男性の友人がSNSで「痴漢冤罪を見た」といっているので詳細を聞いたところ、逮捕されているのを見ただけだとわかりました。彼は無意識のうちにそれを「冤罪だ」と思っていたのでした。

 男性の、「冤罪はいつ自分に降り掛かってくるかわからないから怖い」という気持ちは理解できます。冤罪はあってはならないことですし、なくす必要があります。でも「痴漢被害よりも冤罪被害のほうが深刻だ」という主張はさすがに論理が飛躍していて冷静さを欠いています。被害をあまりにも軽視しているうえに、現状にも即していません。そうした主張をする人たちは、今年上半期に頻発した鉄道飛び降りのニュースで恐怖心が煽られ、パニックになっているのだと思います。

 痴漢が話題になるたび、冤罪被害のほうが痴漢被害より深刻だと話をすり替える人たち。どちらが深刻なのかを比較することは本来、意味がありません。冤罪をなくすことと痴漢を無くすことは、両立できるはずです。そうした人も「たしかに痴漢は悪い」とはいうのですが、痴漢をモンスター扱いし、加害者には何を言っても無駄だとし、一方で被害者の落ち度は責めます。冤罪の加害者になる可能性があるからと、被害者が通報すること自体を問題視します。冤罪の原因を作っているのは女性であり、被害を訴え出る女性に責任があるという発言が、SNS上で飛び交っています。

 普段性犯罪に言及しない人たちも無自覚に被害を軽視し、セカンドレイプ発言を行っている……。悪気はないとわかっているからこそ、私はそれらを見るたびに心が痛み苦しくなります。なぜそうなってしまうのだろうかと不思議に思うのです。

痴漢の罪をなすりつける卑怯な手口

 私は以前、「痴漢のなすりつけ」に遭遇したことがあります。痴漢の手をふり払った瞬間、その男性Aが隣にいた別の男性Bの手をつかみ「お前、痴漢してただろ」といい、さらにもうひとりの男性Cが「俺も見ていたぞ」といいました。しかし、私はBが痴漢ではないと手の位置からわかりました。騒ぎになり次の駅で私とBが降ろされ、ACはそのまま電車で去っていきました。

 「私は痴漢していたのはあなたじゃないと思うんですけど、そうですよね?」と聞くと、「いきなり手をつかまれて痴漢だといわれた」と返ってきました。私もBもそのまま帰りましたが、こんなことがあるのかとショックでした。おそらくACはどちらか一方が痴漢をし、「捕まるかもしれない」と思ったときはそこにいる他人になすりつけ、もう一方が目撃者となるよう互いに協力しているのでしょう。

 ここまで酷くはなくても、被害に遭った女性が加害者を取り違える可能性もあります。しかしその責任を被害者の女性に求めると、被害に遭った人が訴え出にくくなり、結果、痴漢を許容することにつながります。

 もちろん意図的に被害をでっち上げる女性がいないとはいい切れません。しかしその後の手続きを考えると、成功する確率はそこまで高くないと感じます。警察に行くと、被害者が加害者に示談を持ちかけにくくなるからです。

 また痴漢冤罪があるのはそもそも痴漢という犯罪があるからです。そしてその検挙を被害者の訴えに依存していること、容疑者の権利が尊重されない捜査体制、司法制度も問題です。それなのに、なぜ両者の問題を切り分けられないのでしょうか。

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