「痴漢をなくす」は皆の問題
依存症だと知られること、治せることは男性にとっても救いになるでしょう。私は男性から「性欲や、男性であるだけで持ってしまっている加害性が怖い」と相談されることが多いのですが、更正プログラムがあると伝えると彼らは安心します。
「再犯予防のエビデンスは整ってきている。一方で、これから痴漢になるかもしれない人への予防が足りておらず、それには性教育と、性暴力の実態を伝えていくことが重要」と斉藤さんはいいます。しかし、加害者への治療プログラムへの強制力がなく、治療できる病院も足りないこと、そして被害者の受け皿も足りていないこと、鉄道会社が積極的でないことなど多くの問題が提起されました。
「加害者は異常な人としていないことにされ、被害者もいないことにされる」と、社会全体であまりにも対策がされていないことが共有された形で、イベントは終わりました。
私が面白いと感じたのは立場の違う人同士の対話が聞けたことで、特に小川さんと二村さんの組み合わせはこのイベントならではでした。考えや職業などが違うからこそ、それぞれの分野で取り組めることや、共有できることがあるはずです。
私、卜沢彩子が痴漢をなくすために取り組んでいきたいのは、各方面の専門家に話を聞ける総合的な痴漢諸問題に関する勉強会を開くことです。被害者支援、加害者更生、司法、鉄道、行政、創作物、メディア……さまざまな分野の知識をもとにし、それぞれ協働して取り組む必要があると考えています。
「冤罪が怖い」と思っている人も「痴漢をなくしたい」と考えている人も、総合的に知識を身につけ、今後の建設的な提案やアクションにつなげられる場を作り、少しでも痴漢で苦しむ人がいない社会に近づけたい。加害者にとっても痴漢をなくすことは必要なのだと、本書を読むと感じます。つまりは“痴漢行為が起きなくなること”はすべての人のためになるのです。できるだけ多くの人が当事者意識を持って、“痴漢行為が起きないようになるにはどうしたらいいのか”という方向に意識が向かうようになってほしいと思います。