“有害な男らしさ”を男性監督が提示し、アン・ハサウェイがなぎ倒す『シンクロナイズドモンスター』

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『シンクロナイズドモンスター』  ナチョ・ビガロンド監督

 アン・ハサウェイ主演の怪獣映画(ハリウッド的には「カイジュー映画」)、と聞いてもどんな作品かまったく見当もつかない人がほとんどだろう。特にカイジュー大好きなオタク男子たちには。

 『プラダを着た悪魔』や『マイ・インターン』では現代の働く女性のリアルな姿を体現して高く評価されたアン・ハサウェイ。しかし彼女は日本人受けする可愛いらしいビジュアルとは裏腹に、過去に、『ラブ&ドラッグ』で惜しげも無く脱いだり、『レイチェルの結婚』ではドラッグ依存の精神不安定な女性を演じきったり、一癖も二癖もある役を選ぶ傾向にある。なので、今作もただの怪獣映画ではないだろうと想像はしていたのだが、まさにその通りであった。

 韓国はソウルのど真ん中に、ある日突然謎の怪獣(ゴジラみたいな)が現れる。その同じ頃アメリカでは、連日の呑み過ぎで仕事もクビになり彼氏にもフラれたグロリア(アン・ハサウェイ)が、都落ち同然に地元の田舎の小さな町に帰省し、幼馴染のオスカー(ジェイソン・サダイキス)の営むバーで働き始め、なんとか再起を図っていた。

 テレビに映る韓国の怪獣が、なぜか自分と「シンクロ」していることに気づいたグロリア(彼女が右手を挙げると怪獣も挙げる、のように)。特に、酔っ払って意識を失ったときにシンクロしがち、という事実に気づいた頃、彼女(ソウルの怪獣)の前に、新たなロボット怪獣が出現したのだが、ロボットのシンクロ相手はまさかのオスカー。そのことが人間であるふたりの関係性も大きく変えていくことになる……。

 と、書いていてもきちんと伝わるのか不安になるような筋書きなので、詳しく知りたい方は見ていただくしかないのだが、この映画が他の怪獣映画と比べて異質なことは明らかだ。なぜかというと、酒浸りのダメウーマン(グロリア)に対し、彼女にほのかな恋心を抱く真面目男(オスカー)が、久しぶりの再会から時間が経つにつれ、徐々に本性を現し出し(本人は無自覚に)、最低な(しかし女性にしてみれば超あるあるの)モラハラ男に変化していき、怒りのあまりロボット怪獣とシンクロしていることまで利用して、自分の思い通りにならない女を攻撃しだすのだ。

 メキシコ人であるナチョ監督はあるインタビューで、「“有害な男らしさ”について掘り下げたかった」と語っている。

 オスカーのグロリアに対する、一見優しさに見える行為(たとえば引越し先に色々と家具を提供してくる、など)。それが隠れた支配力によるものだったということは、グロリアが自分以外の男と親密になったら不機嫌になるワガママさや、機嫌が悪くなると男友だちにさえ高圧的な態度をとりだすことで徐々に見えてくる。

 他にも、何かとグロリアのことを上から目線で批判したがる元彼、関係を持ったのにいざというとき全然頼りにならない地元のイケメン、と、まったく役に立たず、ムカつくだけの男たちが登場する。しかし彼らも、オスカー同様、そのことには無自覚なようだ。

 モラハラをハラスメント(暴力)と気づかず、男女間の日常の一部にしてしまっている彼らは、ある意味、韓国で暴れる怪獣よりもモンスターなのではないか? と考えさせられる。

 しかし、“有害な男らしさ”が世間に振りまく実害と、怪獣の存在が映画の中でうまくリンクしている、とは、正直言い難い。なぜそれがソウルなのか、なぜアメリカの片田舎にいる彼女たちにシンクロしたのかの説明は曖昧で、怪獣の存在とジェンダー問題の意識がわかりやすく描かれているとも思えないし、決して上手な映画とは言えない。

 ただ、その妙な歪さは今作の場合、作り手の力不足というより、男性である監督自身も手探り状態でこの問題に向き合おうとしているがゆえのようだ。監督の姿勢そのものが作品に反映しているようで、「もうちょっと!がんばって!」勝手に応援したくなる不思議な魅力がある。

 ラスト、自分を縛り付けて苦しめるモラハラ男たちと向き合うため、雨降るソウルの街中に、DVで傷ついた顔を隠さず、仁王立ちでロボット(という現実)に立ち向かうアン・ハサウェイは、他のどの映画とも違う、また新しい姿を見せてくれる。それは、「カイジュー映画」は男だけのものなんかじゃ全然ない、という宣言にも見える。

 ちなみに、ナチョ監督は映画監督としての松本人志の大ファンで、怪獣の造形に『大日本人』の影響を大いに受けたと公言している。筆者も『大日本人』は映画として嫌いではないが、結果的に、男性としての松本人志とは真逆のジェンダー観を提示する映画となったことは、なんとも皮肉というか申し訳ない気持ちにはなる……。

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