私が「エイジアン・ビッチ!」と呼ばれた理由~増えるアジア系への差別 in アメリカ

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

「エイジアン・ビッチ」は黒人が嫌い?

 筆者はニューヨーク・マンハッタンの黒人地区ハーレムに長年暮らしているが、これまで攻撃的なアジア人差別を受けた記憶はない。「あなたチャイニーズでしょ。え? ジャパニーズなの? ま、どっちでも同じよね」といった無知に基づく対応をされることは今もあるが、攻撃と無知、2つの異なる差別が被差別側に与えるダメージは質が全く異なる。

 ところが先週、筆者はある黒人の年配女性から「エイジアン・ビッチ!」と呼ばれた。

 ハーレムのドーナツ屋でコーヒーを飲んでいた。狭い店内ゆえ、同じくひとり客のアジア系の若い女性と相席していた。その女性はベーグルを食べ終わるとそそくさと店を出た。その後、背後のテーブルにいた若い黒人男性が筆者に「コーヒー代を恵んで」と声を掛けてきた。振り返ると男性はすでに紙のコーヒーカップを手にしていたため、断った。

 すると店内にいた、やはりホームレスらしき年配の黒人女性が「エイジアン・ビッチ!」と声を上げた。

 ことさらに反応すべきではないと思い、聞き流したところ、女性は物乞いの男性に向かって「黒人女性に頼みな! エイジアン・ビッチ、ジャーマン・ビッチ、コリアン・ビッチ! 黒人が嫌いなのよ!」と言い捨て、店を出て行った。

 ハーレムの黒人たちは他人種の流入におしなべて鷹揚だが、近年の再開発による白人の大量流入にいらだっていることは確かだ。過去100年間にわたって自分たちの住処であった場所が乗っ取られ、追い出されてしまうのではないかという恐怖からだ。ゆえに白人へのあてこすりのセリフを吐く人は稀に見掛ける。再開発によって白人だけでなくアジア系も少数ながら移り住むようになっているが、白人に比べると存在感が薄く、これまでは「いらだち」「恐怖」の対象にならなかったのだ。

 それでも徐々に増えるアジア人に、ハーレムの人々も気付き始めた。この日、ホームレスの女性は筆者と、相席した若い女性の二人を同時に見てしまった。数の脅威である。普通に暮らせていれば、それくらいは気にならないのかもしれない。しかし女性は貧しく、ホームレスだった。「白人に続いてなぜ移民のアジア人まで自分たちの街にやって来て、アメリカ人である自分よりマシな生活をしているのか」……女性はそう思い、いらだったのではないか。

1 2 3 4

「私が「エイジアン・ビッチ!」と呼ばれた理由~増えるアジア系への差別 in アメリカ」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。