連載

ケータイ小説「七つの大罪」はどこへ消えたのか

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 まずはケータイ小説の始祖・『Deep Love』だ。この作品のヒロイン・アユは援助交際(売春)を繰り返す女子高生であり、恋する相手・義之の手術費を稼ぐために援助交際をし続けた結果、エイズ(不治の病)にかかりあっさり死ぬ(義之はホストになって荒む)。また『Deep Love』第三部の『レイナの物語』では、アユの友人レイナがレイプされて孕んだ子どもを産み(妊娠)、不幸にまみれて精神的にどんどん病んでいき発狂する(具体的に説明するとエグすぎるので割愛……)。

 次は比較的おとなしい。2005年に刊行されて大ヒットした『天使がくれたもの』。『恋空』に比べてインパクトは小さかったように思われているが、「実話系」のはしりとなった重要な作品である。本作のヒロイン・舞は、友人に誘われて通うようなったたまり場を起点に三人の男と付き合うが(その間に、たまり場メンバーの女子が二人も妊娠して高校を辞める)、最終的には本命である香具山への真実の愛を自覚する。が、その香具山は事故で突然死ぬ。

 そして言わずと知れた『恋空』(2006)。ヒロイン・美嘉は、イケメンヤンキーのヒロと付き合い始めたことでヒロの元カノに恨まれ、策略によって数人の男にレイプされてしまう。その後美嘉はヒロの子どもを妊娠するが流産。ヒロはシンナー(ドラッグ)を吸い始め、美嘉を虐待し突き放す。ところが、実はヒロはガン(不治の病)に侵されていて、美嘉と距離を取っていたのは彼女を悲しませないためなのであった。ヒロは死亡し、美嘉は自殺しかけるが思いとどまり、彼への真実の愛をかみしめながら明日へ向かう。

 最後が『赤い糸』(2007)だ。ヒロインの中学生・芽衣が同級生アツシと付き合い始めるところから物語は始まるのだが、このアツシという男、浮気はするわ、ドラッグ使用セックスをするわ、ごくひかえめに言ってヤバい奴である。すったもんだの挙句アツシと別れた芽衣は、心の傷を抱えて適当な男とセックスし、不良に輪姦され、次に付き合った男にデートDVを受け、ドラッグパーティに行き、よりを戻したアツシの元カノに殺されかける。しかし最終的には、アツシへの真実の愛を実感し、彼とめでたく結婚する。三十女としては、本当にアツシでいいのか甚だ疑問。

 バラツキはあるが、この頃のケータイ小説の「あるある」の傾向は読み解けるだろう。もちろん恣意的に抜き出している面はあるが誇張はしていない。

 レイプに妊娠、不治の病。ケータイ小説ブームの頃、特に『天使がくれたもの』から『赤い糸』までの間は、サイトへの投稿作を見ても書籍化作品を見ても、たしかにこういった、センセーショナルな要素を持った作品が目立った。

 こうした2000年代ケータイ小説の志向性のことを、本田氏は「レイプや妊娠や不治の病といった不幸イベントを耐え忍んだ結果、『真実の愛』を見つければ全ての不幸なイベントがキャンセルされ、『幸福』になるという信仰」と表現した。

 私も、ここについては比較的近い考えを持っている。一連のヒット作の根底には、いずれも「我慢すればいつかは報われる」という理想——それを私は「信仰」とは言わない——があるように思われるのだ。ヒロインに課せられた使命がこの「信仰」を体現することであり、そのために数々の悲劇があるのだという主張には、私もおおまかに賛同する。

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