番組から求められる役割をまっとうするためにも、そして「わからない」と答えないで、しかし暴言を吐かずにコメントするためにも、日々のインプットは欠かせない。春香クリスティーンは多忙な芸能活動の中で、自身のインプットが不足していることを痛感し、今回の決断に至ったのではないか。至極真っ当な、誠実な態度だ。「成長していく様をみてください」と言ってもないのに、「おまえの成長記録になんで付き合わなくちゃいけないんだ」などと暴言を吐かれる謂れなどない。自分の人生をどのように使おうが、その人の勝手だ。
これは決して「勉強不足のタレントはニュースにコメントをするべきではない」と主張したいのではない。専門家ではないからこそ素朴な疑問や、誰もが躊躇してなかなか言えないことを自身のキャラクターを利用して述べる、というのは芸能人の強みだと思う。それが、視聴者の感覚に最も近く、理解を促すことが出来る場合だってあるはずだ。とはいえ、そうしたタレントが非常に問題のある差別的発言をしてしまうことがある。そこで必要なのは、番組制作側のコントロールなのではないか。
以前から「なぜワイドナショー・情報番組は、タレントばかりが集まって、タレントばかりが発言するのだろう?」と思っていた。例えば『ワイドナショー』は、MCの東野幸治、山﨑夕貴あるいは秋元優里、そしてコメンテーターの松本人志がレギュラーだ。たびたびゲストとして出演するのは石原良純、指原莉乃、長嶋一茂、ヒロミなど、やはりタレントで、専門家として起用されるのも、一部弁護士はいても、あとは芸能レポーターや現役中高生らがほとんどだ。こうした出演陣が、特定のトピックに専門的なコメントをすることや、全体をコントロールすることは、ほとんど不可能だろう。
先に言及した『バイキング』のは、メインMCが坂上忍で、日替わりMCをブラックマヨネーズ、柳原可奈子・高橋真麻、おぎやはぎ、フットボールアワー、雨上がり決死隊が務めている。それぞれの曜日にレギュラー出演陣としてタレントや女優・俳優などが参加し、不定期ゲストもタレントがほとんどだ。専門家として芸能レポーターや映画評論家、弁護士なども出演しているものの、番組が取り上げる問題は非常に幅広く、十分に網羅できているとはいえない。そもそも専門家がコメントをしても、タレントがすぐにそれを遮るため、機会も時間もきちんと確保されていない。
程度に違いはあれど、時間帯や局が変わっても、こうした状況にあることに大した違いはない。
「情報番組であって、報道番組ではない」という言い訳は通用しないだろう。情報番組だからといって差別的な言動を「暴言」「毒舌」などとコーティングし、ネタとして消費していい理由にならない。取り上げられる問題によっては、明確な被害者が存在し、取り上げられ方によっては、偏見・差別を強化することになる。新たな被害者が生まれかねないだろう。
長年、視聴率の低迷が叫ばれているテレビではあるが、それでも他に比べれば、現在も多大な影響をもつメディアであることに変わりない。テレビに出られるということは、テレビ番組を制作できるということは、ひとつの権力だ。その影響力を十分に自覚しなければいけない。「暴言を吐いていい」と開き直るべきではないし、そうしたタレントをコントロールできないような番組を制作するべきではない。「わからない」ことは知ったかぶらずに素直に受け止め、コメンテーターとして、スタッフとして必要な知識をインプットする姿勢が求められる仕事だ。春香クリスティーンの決断のどこが「バカヤロー」なのだろう。
(wezzy編集部)