大和「ずっと寝たきりで死んでいくかもしれないけど、それはもうしょうがない。そう思ったうえでじゃあ最後に何かしたいことがあるかを自分に問いかけてみたら、手術を受けてみたいとか、やっぱりもうちょっと生きてみたいとか、そういう気持ちが見えてきたんです」
さいき「それが、自己肯定のひとつの形なんだと思いますよ」
ーー身体の回復と心、脳の回復、いずれも保護を利用できることが決まった時点では回復にどのくらいの時間がかかるのか、そもそも回復できるのかわからないものです。しかし、『助け合いたい』の漆原諒さんは、うつでドクターストップがかかっているにもかかわらず「働かなければ」と焦り、空回りしていました。
さいき「それだけ男性は働いて稼ぐ以外の人生が実質許されていないということですね。それは、女性がその男性を支えることになっているのと表裏一体で、男女の役割がそれぞ固定されているから、両方ともそこから逸脱しようとするとものすごい負荷がかかります。彼のように休養していも、それを世間が認めてくれずに『中年の男の人が昼間からフラフラ……』と怪しまれますし、本人も働いていない自分に存在意義を見出せなくなってしまうんです」
働くことをやめられない男性、働けない女性
ーー 一方で諒さんの姉は結婚して以来、長らく専業主婦をしていて、いざ自分も稼がなければならなくなったとき仕事の選択肢がほとんどないと知り、愕然としていましたね。一度仕事から離れた女性は仕事を得にくいのが現実です。
大和「それなのに最近、若い女性のあいだで早く結婚したい、専業主婦になりたいという傾向が強まっているように感じられませんか?」
ーー2013年の「少子高齢社会等調査検討事業報告書(若者の意識調査編)」では、「結婚(事実婚含む)したあとは専業主婦になりたいと思いますか」という問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した人が合わせて約35%。「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の合計が約39%なので、それよりは下回るものの、専業主婦願望を持つ女性は決して少なくないといえますね。
さいき「まず、働きたくないというのが大きな理由だと思います。親の世代がちょうど男女雇用機会均等法世代で、でも社会環境が整わずに潰れていった女性たちを見ていると仕事をしたい、続けたいとは思いにくいですよね。さらにいまの労働環境見ていたら、男女ともに働きたいと積極的に思えない人が多くても当然でしょう。生活保護=働かない人という思い込みをもとに、『俺だって働きたくねーよ』というバッシングをSNSなどでよく見かけます」
「老後破綻→生活保護」は必ず増える
大和「希望を持ちにくいですよね。諒さんは、大きなミスをしたわけでも何か悪いことをしたわけでもなく、むしろブラックな労働環境でも営業で好成績を収めてきたのにリストラされています。私も、さしたる理由もなく突然リストラされました。そういう現実を見ていると、働いてもいいことがないと思うのも無理からぬことなのかもしれません」
さいき「そういう理不尽な目に遭ったり、四大卒でも就職や働きつづけることがままならなかったり、これはもう個人の努力でどうこうできるものじゃなくなっているんですよ。多くの人がそこそこ稼いでそこそこ消費できて、老後は年金でちゃんと暮らしていけるんだったら、働くことに意味を見いだせるのでしょうけれど、いまはそれが破綻しているうえに、老後はもちろん、病気や事故で働けなくなったときのために自分自身で備えないといけません。給与や収入をサポートするタイプの保険、いまとても多いですよね。でもそこには、備えられる人はもともと貧困リスクは低いという矛盾があります」
ーーそこは本来なら、社会保障で受け止められるべき、ということですよね。