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女性が年下男性に魅せられるとき、恋愛感情なのか母性本能なのかわからなくなる戸惑い/ペヤンヌマキ「男女逆転版・痴人の愛」インタビュー前篇

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ペヤンヌマキ:本公演でやる演劇の形式と、朗読劇であるリーディングとでは、稽古場での様子もぜんぜん違います。リーディングでは原作の文章の美しさを生かし、きれいな言葉の表現を重視しましたが、演劇は役者が立って、彼らの空気で見せる部分が大きい。リーディングは洋子の独白表現が大きかったのですが、本公演ではナオミが少年からどんどん悪い男へと育ってしまうところや、ふたりの関係性の逆転部分など、脚本の構図も結構変えました。

性別だけでなく時代設定も原作の大正時代から現代に置き換えていて、リーディングではナオミの進学する専門学校や、ナオミにねだられて定期預金を解約しに行く銀行の名前などの、現代語の固有名詞のセリフが受けていましたね。ブス会*の作品は、男性の観客からの感想や見方が、私の想定や女性からのそれとは違っていることが多くて、たとえば女性の観客が泣いている場面で男性は笑っているんです。リーディングのときもそうで、爆笑している男性もいましたね。

でも男性からは、「怖い」っていう意見も多かったです。女性からはなかったんですけど。ラストは、女性にとってある種の救いのある結末に変えているのですが、女性の感覚からするとわりと普通に持ち合わせているものが、男性にとっては「そんなところ、知らなかった」という気持ちになるようです。

結婚制度にメリットを感じない

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――劇中、現在の日本の結婚制度は女性にとって決して愉快なものではない、と指摘されています。

ペヤンヌマキ:指摘というほどでもないのですが、私の実感を書きました(笑)。若いころは結婚に対する単純な憧れもあったんですが、よく考えると女性はいまでも、「苗字が変わって相手の家に入る」というイメージですよね。それって「これまでの自分は何なの?」という気持ちになった瞬間があって。男性を尊重する九州で育ったせいか、結婚は女性が犠牲になる……みたいな思いが増してきて。そうじゃない結婚の形もあるんでしょうけど、制度自体にメリットはないんじゃないかって、30代半ばくらいから思うようになりました。

――青年ナオミが関係を持つ相手には、男性もいますね。

ペヤンヌマキ:山岸門人さんが演じる「浜田」は、原作の性別をただ逆転したら若い女性になるんですが、そうしちゃうのはあまり面白くないなと。単に「若い」女性に対する嫉妬や焦り、みたいな表現にはしたくなかったんです。人たらしって、男女問わず惹きつけますよね、だから同性でもいいのかなと考えました。

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「男女逆転版・痴人の愛」稽古風景

ペヤンヌマキ:あと最近、男性同士の仲睦まじい絵面を見たいという気持ちが結構高まっていて(笑)。見たいものややりたいことを詰め込んでいきたいというか。それに、若い女性とイチャついているナオミはあんまり表現したくなかったんです。

架空の存在に嫉妬する

ペヤンヌマキ:若い女性の箇所は目に見える存在としては表さず、SNS上の存在として表現しています。現代の嫉妬って、存在が見えない架空のものに対してやきもきする方が多くないですか? 見えない方がさらに想像がかき立てられますからね。

――原作では譲治の愛情は、ナオミの肢体に魅せられた肉欲へと突き進みますが、性別が逆転した洋子の愛情はさまざまな感情がモザイクのように入り組んでいます。それはやはり、女性ならではなのでしょうか。

ペヤンヌマキ:原作と明らかに違う「単純な肉欲」ではない部分は、最初から意識していました。女性の母性本能ってやっぱり強いと思うので、恋愛感情なのか母性本能なのか、洋子は自分でもよくわかっていない。その葛藤みたいなものが一番複雑なのかなという感じはありますね。洋子は、ひとから「先生」と呼ばれる立場のひとというのもありますが、何かを育てたくなってしまう気持ちは年齢を重ねると誰にでも芽生えるものではないでしょうか。

男性の譲治さんはナオミを最初から「妻」にしようとして、いい女に育てようとはしているけど「妻としてのいい女」にしようとしていますよね。男女逆転したときにはそうではなくて、社会的成功も含めた「息子」として育てようとしていたのが、恋愛対象なのか息子への愛なのかわからなくなって自滅していく。でも、最終的には破滅ではない、希望を持ちたいと。

でも、女性ってやっぱりつつましいですよね。女性が欲求をあからさまにするのははしたないと批判される風潮の根強さもありますが。男性だと「おカネでいい思いさせたんだから」と体を求めることが多いですが、女性はたぶん、そこまで強くは、いかない。肉欲がまったくないというわけじゃなくて、触りたいとか触れ合いたい気持ちはあっても、それを出しづらいというのはあるかもしれないですね。

*   *   *

夏に上演されたリーディング版では、原作の構成やセリフに残る大正時代の香りを緻密に踏襲しながらも、平成の世をサバイブする女性の心の揺れに鋭く迫り、新しい現代文学作品を観ているかのようでした。ペヤンヌさん自身が「ハマった」という立場の逆転がさらに立体的に描がれる本公演は、主人公の洋子と同年代の女性として、今後の人生の参考にもしたいところ。後篇ではペヤンヌさんに、洋子にも反映された40代の女性の愛情や欲望についてさらに聞いていきます。

Profile

ペヤンヌマキ:1976 年、長崎県出身。ブス会*主宰 / 脚本・演出家 /AV監督(ぺヤングマキ名義)。早稲田大学在学中、三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。AV監督として活動する傍ら、2010年、演劇ユニット「ブス会*」を旗揚げ。以降全ての作品の脚本・演出を担当。現在はフリーの映像ディレクター・脚本家としてテレビドラマなども手がける。
【著書】『女の数だけ武器がある。 たたかえ!ブス魂(幻冬舎文庫)

Infomation

ペヤンヌマキ☓安藤玉恵生誕40周年記念ブス会*
『男女逆転版・痴人の愛』
201712819
こまばアゴラ劇場

【地方公演】
リーディング『男女逆転版・痴人の愛』
2018121
久留米シティプラザ

詳細は、http://busukai.com/

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フィナンシェ西沢

新聞記者、雑誌編集者を経て、現在はお気楽な腰掛け派遣OL兼フリーライター。映画と舞台のパンフレット収集が唯一の趣味。

twitter:@westzawa1121

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