大西:みなさまいろいろな感染症の事例をご存知ですが、中でも「特にこれは怖いな」と思うものはありますか?
宮原:悲しいグラフとしては、日本の百日咳がありますよね。百日咳を含む3種混合ワクチンを中止し、その3か月後に開始年齢を上げて再開したものの、百日咳で亡くなる子どもが多く出てしまった。確か2人の子どもがワクチン接種後に亡くなったので中止したけど、その結果百日咳で亡くなった人はそれ以上だったという。
大西:1979年には20名の死亡が確認され、さらに新しいワクチンで定期接種が開始されるまでの6年間に患者数は10倍以上、死亡者数は合計100名以上になったという事例ですね。恐ろしいと思いました。
ナカイ:私が怖いなと思うのは、キリスト教系の新宗教であるクリスチャンサイエンスの、夏の子ども合宿で、ジフテリアで死ぬ子どもが時々いること。
宮原:ジフテリアは公衆衛生が破綻したときに流行しますね。旧ソ連や、いまのベネズエラとか。
大西:つまり現代では、ワクチンを打っていればそれで死ぬことはなかったという。
ナカイ:クリスチャンサイエンスは大人も医者に行かないから、治療法がある病気でも死んでしまう。あとは子どもですと、小児糖尿病で死ぬ子もすごく多いようです。
大人の感染症リスク
森戸:糖尿病については、数年前に祈祷師が親に「インスリンを打たなくていい」「好きなものを食べさせろ」と指導して、子どもが亡くなってしまった事件もありましたね。確かに親が1日に何度も子どもの血糖値をチェックするのは大変ですし、食事制限で子どもがかわいそうになってしまいますよね。そんなとき「それをしなくていい」と言ってもらえたら、しかも自信満々に確固たる証拠があるように言われたら、信じたくなってしまう気持ちはわかります。
宮原:10歳未満の糖尿病はほとんど1型糖尿病ですから、本当は生活習慣で治るというものではなく、原則として外からインスリンを足して一生お付き合いしなくちゃならないものなんですけどね。
大西:そういう簡単に治るものじゃないもののところへ、怪しいものが忍び込んでくる。しかも自信満々に言うので、つい信じてしまう。
ナカイ:私は海外の体験記を翻訳してnoteで公開しているんですが、その中でもよく読まれているのは、父親が水疱瘡(ぼうそう)のワクチンを打ってなくて、子どもから感染して亡くなってしまう話です。国内だけでも毎年20人くらい、水疱瘡で亡くなりますよね。
宮原:水疱瘡は、肺炎との合併症も多いので。
大西:水疱瘡って言うと子どもがかかるものだって思って、感染を心配しない大人が多そうです。あとは根拠なく、自分は絶対大丈夫だと思っている人もいるでしょう。
ナカイ:日本に予防接種が入ってきたのが遅かったものは、その病気への意識もあまりなく「よく覚えてないけど、小さいときかかってたはずだ」みたいに思っちゃって、成人になってから実は……というケースもあるはずです。