宮原:あとは、東南アジアに出張へ行った30代男性会社員が麻疹脳炎にかかった事例があります。
当時は厚生省の感染症情報で、行く国ごとに打ったほうがいいワクチンを公開していたんですが、そこに麻疹が載ってなかった。接種医は打ったほうがいいと言ったものの、結局国が勧めていないということで打たずに行き、脳炎になってしまった。いまはどうされているのか。社会復帰できているといいんですが。
ナカイ:前にうちの夫が仕事で高校生をインドネシアに連れて行くことがあり、そのときインドネシアで麻疹が流行っていたんですよ。だから「確認したほうがいいよ」と言ったら、「別に外務省からお達しが来ていない」とか言うんですよね。
宮原:「打つように」と言うと、誰がお金を負担するのか、誰の責任になるのかという話になるので、なかなかむずかしい問題だなとは思います。
なぜワクチンの本を書いたのか
森戸:『小児科医ママとパパのやさしい予防接種』を書いたきっかけはまず、ワクチンに関する噂を不安に思う保護者に、外来ですごくいろいろ聞かれるんですよね。なぜ打たなくてはいけないのか、安全なのか、何が入っているのか。かぎられた時間のなかでそれらをすべて説明するのがすごくむずかしい。というか、説明しきれない。
それだったら、改めて本としてまとめれば端的に話すことにも役立ちますし、ゆっくりおうちで読んでもらえる。そう思い、書きました。
大西:私は編集として企画した立場ですが、図書館とかで予防接種の本を探すと、とにかくひどいものが多すぎるんですよ。たまたま私が行った図書館で見つけられたまともなワクチンの本は、ナカイさんが翻訳した『反ワクチン運動の真実』と『子どもができて考えた、ワクチンと命のこと。』(柏書房)くらいしかなかった。
一方で、すごく借りられているのは、反ワクチンで有名な母里啓子(もり ひろこ)さんの本……。保健所の所長だったとか、昔の権威ある経歴を使っているのがまた問題だなと思います。
ナカイ:偉い人が書いた本を読んで勉強しなくちゃ、から洗脳されてしまうんですよね。
森戸:Amazonでワクチンの本を検索しても、不安を煽るようなものばっかり出てきますし。玉石混合じゃなくって、石ばっかり。
一方、まともな情報は自治体でもらえるような無料のパンフレットにちゃんと書いてありますし、専門家にとっては当たり前すぎて改めていうまでもないようなことだったりするので、なかなか本になりにくいんでしょう。そして反ワクチンの本ばかり目立ってしまう。
大西:あとは、普通の小児科医が書いていることが重要だと思ったんです。研究者とか公衆衛生の専門家とかじゃなくて臨床者、普通のお医者さんが語ってくれること。
宮原:私の場合は森戸先生からお声がけがあったから……というのもありますが、製薬会社とは違う立場からワクチンの必要性を語る必要があると思ったことと、「そういう本があったほうがいい」という意見は以前からありましたが、なかなか出なかったので、じゃあ自分が…となったわけです。また、MMRワクチンで自閉症になるという映画が日本で上映されそうになったのも、執筆の理由です。
大西:当たり前の本って、なかなか出せないんですよね。煽ったほうが売れますから。まともな本は専門書が多く、一般の人が読むにはむずかしいですし。
でも、やっぱり「批判しないほうがいい」と言っている人や、自分たちには関係ないと思っている人たちの姿勢も、反ワクチン運動が広まる土壌を作っているんだと思うんですよ。
もちろん、いろいろなアプローチの仕方があっていいんですけど、アプローチ自体は絶対に必要。だから本書を含め、いろいろなアプローチでワクチンの正しい情報を広めていきたいですね。
ナカイ:アメリカには「予防接種をした子はかっこいいね!」みたいな絵本がたくさんあるんですよ。君の身体の中に小さなヒーローが入って、戦っているんだよ! みたいな。ところが日本にはなぜかありませんので、ぜひ作りたいなと思っています。
森戸:この記事も、いろいろな場所で情報としてぜひ使っていただきたいですね。