女子の理系離れが起きる6つの理由 男女の賃金格差解消の肝となるSTEM教育を促進するには

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 日本の大学・大学院における女性の相対的な就学率は先進国で最低水準なだけでなく、その学習内容も収入に結び付きづらいものに偏っています。その理由のひとつとして、日本は「リケジョ」の育成に失敗しているから、という記事を以前この連載で取り上げました(「リケジョ」の失敗により低賃金状態におかれる日本の女性たち)。先日、OECD(経済開発協力機構)が『Education at a Glance(図表でみる教育』の最新版を発表しました。この『Education at a Glance』にあるSTEM系学部(いわゆる理系学部)の「卒業率」のデータを見ても、やはり日本はリケジョの育成に失敗していることが確認できます(注1)。

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 卒業学部と賃金の関係についての信頼できるデータが日本にはないのですが、人文科学や教育・サービス分野の卒業生に比べ、STEM系学部の卒業生は所得が高いとされています(前述の記事ではジョージワシントン大の調査を紹介しました)。

 日本でいまだ根強く残る男女間の賃金格差を縮小するためには、女子のSTEM教育を促進することが喫緊の課題だと言えるでしょう。では、どうすれば女子のSTEM教育を促進することができるのでしょうか。女子のSTEM教育の問題を包括的にレビューした全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパーを基に紹介していきたいと思います。

女子がSTEM教育から遠ざかってしまう6つの理由

 良くも悪くも、教育が果たす役割の一つにトラッキングが挙げられます。トラッキングとは、個々人が持つ能力に応じて、受けられる教育の水準や中身が決まることで、学歴や学校歴、普通教育か職業教育なのか、理系か文系か、などが具体例として挙げられます。ドイツのように強力なトラッキングが早い段階でかかる国がある一方、日米の様にトラッキングが比較的緩やかな(学校歴には当てはまらないかもしれませんが)国も存在します。このトラッキングが女子のSTEM離れの契機となるので、日本と制度が近いアメリカでなぜ女子のSTEM離れが起こるのか、日本の参考とするために見ていきましょう。

 一つの要因は成績です。生徒は過去の成績が良かった科目を選択しがちです。STEM科目での男女間の成績差は小学校入学時点では存在しないものの、小学校高学年ぐらいになるとわずかな差が見られるようになります。このわずかな差が科目選択に影響し、女子のSTEM離れを引き起こしています。しかし、この成績と科目選択間の因果関係は女子のSTEM離れのほんの僅かな部分しか説明できません。

 2つ目の要因は自信です。成績自体よりも、「STEM科目で良い成績が取れる」という自信と「STEM科目は価値がある」という考えが、STEM系科目の選択に影響を及ぼしています。STEM科目に関する男女間の自信の差は小学校低学年で既に出現し始め、生徒達自身が男子は数学・女子は国語、という考えを持つに至っています。

 そして、自信と関連するものとして「成長思考(Growth Mindset」があります。成長思考を一言で表すと、「やればできる」という考え方のことです。成長思考のある生徒は努力を積み重ねて成績が向上したり、新たな分野にもどんどん挑戦していきますが、これがない生徒は努力を積み重ねられなかったり、得意なものごとだけに固執してしまいます。高校段階になると、男子は女子と比べて数学分野における成長思考が明確に高くなります。この結果、STEM科目の男女間格差や、女子のSTEM離れが加速していきます。

 しかし、この数学分野における成長思考は可変的なものです。実際に高校で数学分野における成長思考を強調した授業を実践したグループでは、男女間で成長思考の度合いに差は生じませんでしたが、そうでないグループでは男女間で成長思考の度合いに差が生じました。

 3つ目の要因は教員です。優秀な教員の下では女子のSTEM離れは抑止されますが、そうでない教員の下ではこれが加速してしまいます。教員の影響は他にもあります。

・小学校低学年時に数学に自信のない女性教員が担当になった場合、そうでない場合に比べて「男子は数学、女子は国語」というジェンダーステレオタイプが生徒間で強化される
・小学校低学年時に数学に自信のない女性教員が担当になった場合、そうでない場合に比べて女子の数学の成績が下降する
・数学の成績がよくない教員が担当になった場合、数学の成績に与える悪影響が男子よりも女子で大きく出る
・「女子は数学に向いていない」というジェンダーバイアスを持つ教員が担当になった場合、女子のSTEM離れが加速する

 さらに、STEM科目における女性教員の不足も女子のSTEM離れにつながってしまいます。STEM系における女性教員の存在は、それ自体が生徒や学生のロールモデルとなるため、女子学生のSTEM系科目の成績が向上したり、よりSTEM系の科目を選択するようになります。

 4つ目の要因は家庭です。子供が最初にジェンダーバイアスに接するのは家庭です。子供は両親のことをよく見ています。夫の好みが多かれ少なかれ優先されるような家庭であれば、子供が「男性は女性よりも優先される」といったジェンダーバイアスを形成する足掛かりとなってしまいます。母親が「男子は数学・女子は国語」というジェンダーバイアスを持っていると、それは容易に子供に受け継がれてしまいます。また、母親が数学に自信を持っていなかったり、数学における成長思考を持っていなかったりすると、この影響が息子よりも娘の方で大きく出てしまい、女子の数学離れが加速していきます。

 5つ目の要因は社会におけるジェンダーのあり方です。科学や数学は女性のものではないというステレオタイプの強い社会ほど、これらの科目での男女間学力格差は大きくなり、これに伴いSTEM系科目の選択でも男女間の差が広がる傾向があります。さらに、STEM分野の仕事に、出産後に仕事と家庭の両立が難しい、性別に基づく昇進・昇給の格差がある、セクハラが起きやすい(ないしは隠蔽されやすい)、などのイメージがある社会では女子のSTEM離れが加速します。

 6つ目の要因は数学に関するイメージです。以前、女子は男子と比べて自信を持ちづらい男子の前では競争を避けがち、という男女の学習行動の違いを紹介しましたが、これは数学においても当てはまってしまいます。数学に「難しい」とか「競争的だ」というイメージが強くつきまとっている環境では、女子はSTEM系を避けがちになってしまいます。ちなみに、カギとなるのはSTEM系科目に関するイメージであるため、女子校であるからと言って女子のSTEM系科目の成績が向上したり、女子がSTEM系の科目をより多く選択する、ということはないようです。

まとめ

 以上のアメリカの議論の中から、日本が女子のSTEM教育改善のために取り込めるものとして、家庭・教員・社会に対する働きかけを挙げることが出来るでしょう。家庭への介入は教育の自由と対立するため慎重である必要がありますが、日本の女子のSTEM教育の状況を見ると、ここは例外的に家庭への働きかけが必要だと思います。特に日本の母親世代は、教育機会や社会を通じてSTEM教育に対する苦手意識やジェンダーバイアスを持っている可能性が高いので、ここへの働きかけは避けて通れないと思います。

 次に教員です。日本の小学校教員養成課程を見ると、選抜におけるSTEM系科目の比重が高いとは言えません。入試において必修化も含めてSTEM系科目の比重を上げ、これらの科目に苦手意識を持つ人材を養成課程からはじいた方が良いでしょうし、中高のSTEM系科目の教員養成により多く女子学生が集まってくるような工夫も必要でしょう。

 最後に社会への働きかけですが、メディアに反省を促したいところです。少年犯罪が実数として減少しているにもかかわらず、少年の凶悪犯罪に関するイメージが改善しないのはメディアのあり方が影響していると言われています。ジェンダーステレオタイプも、メディアのあり方が強く影響しているのではないでしょうか。日本の女子の相対的な進学率の低さや、STEM系学部での存在感の無さを見ていると、メディアには報道のあり方など、もう少し反省して欲しいなと思うところがあります。また、メディア以外の会社でも、STEM系部門で女性が活き活きと活躍することが、未来のSTEM系女性を育てることにつながるということが広く認識され、そのための環境整備に取り組まれる必要があると思います。

 日本の女子のSTEM教育を促進するための万能薬は存在しません。家庭・教員・社会というそれぞれのアクターが女子のSTEM教育を促進するために、それぞれができる取り組みを進めて行くことが求められています。

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