連載

進化しつづけるアメリカの生理用品と、端切れやビニールを代用する北朝鮮

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  前回、北朝鮮の生理用品事情について書いた際、15年前の雑誌記事から、「韓国に来て、最も感激するのは実は生理用品のナプキンの存在」で、「韓国に来るまでこんなに便利で快適なものがあることを知りませんでした」「生理のときは ガーゼや着古した下着の端切れを当て、経血量が多い日はそれらを何枚も重ねたり、ビニールを当てたりしていた」という脱北女性たちの声を紹介した。また最近のBBCニュースで「北朝鮮の女性は、今でも昔ながらの白い綿のナプキンを使っている」と報告されていること、2015年に女性が7年間の兵役に就くことが義務付けられたことを機に、女性兵士たちに「デドン」という生理用品が支給されるようになったことも書いた。

 「デドン」は今も支給され続けているのか、「高級生理用品」とのことなので、おそらく使い捨てナプキンではないだろうか、などと原稿を書きながらあれこれと考えていたら、今度はアジアプレス・ネットワークの記事が北朝鮮の生理用品に触れていた(1)。

 この記事では、先月板門店の共同警備区域から韓国側に亡命を図った北朝鮮兵士の体内から、最大27センチの寄生虫が50匹以上も発見されたことに関連して、記者が北朝鮮の取材協力者に「駆虫剤事情」について問うている。

記者「軍隊に駆虫剤は供給されないのですか?」
協力者「それはわからないが、軍隊に(薬を)供給しても役に立たないでしょう。すべて売り飛ばしてしまうから。最近は、兵士たちが皆、腹を空かせていて、供給されたものを何でもかんでも(商人に)売り飛ばして、なんとか食べている有り様。薬が供給されたとしても、全部(市場に)流れていくんです」
記者「そんなに軍隊の食事の事情は悪いのですか?」
協力者「軍隊は非常に悪いです。女性兵士は衛生帯(生理用品)が供給されても、使わずに市場に売ってますよ、お腹が減って。寄生虫の薬なんて、将校たちは使うかもしれないけれど、みんな売り払ってしまうでしょう」

 ここからわかることは、それが「デドン」なのかどうかはわからないものの、今も女性兵士たちに生理用品が供給されているということ、そして、それを売って食べ物を手に入れているということである。売ってしまったあとは、「端切れやビニール」を代用しているのだろう。

 さらに「衛生帯(生理用品)」という表記も気になる。日本ではかつて、欧米由来の月経帯を「衛生帯」と呼んでいたことがあり、中国では丁字帯を「衛生帯」と呼んでいたことがある。いずれにしても「帯」とつくからには使い捨てナプキンではない。
 
 訓練は厳しく、トイレに行く機会も限られるだろうから、月経帯や丁字帯では不自由に違いない。それ以前に、生理が止まってしまうほど食糧事情の悪い国の兵士が十分に戦えるとは思えない。

 BBCニュースでは、北朝鮮についての著書があるジェウン・ペク氏が、生理用品の支給は「士気を高め、多くの女性に『ああ、私たちのことを考えてくれている』と思わせるのが狙いだったかもしれない」と述べている。また、アジアプレスの記事には、「金正恩氏が部隊を訪れたことに女性兵士が感動して泣いているとされる写真」が掲載されており、「金正恩氏は女性兵士に囲まれる写真を好んで多用している」というキャプションがついている(2)。

 金正恩が本当に女性兵士たちのことを気遣い、好かれたいと思っているならば、「衛生帯」ではなく月経カップを支給したらよい。

 すでにご存知の方も多いと思うが、月経カップとは膣内に装着することで、長時間経血を溜めることができ、入浴も水泳も可能、半永久的に使用できるという優れものの生理用品である。値段は高めだが、繰り返し使えるので長い目でみると経済的である(3)。

 月経カップは、欧米で使われている最先端の生理用品というイメージがあるが、むしろナプキンやタンポンを継続的に入手できない生理用品後進国でこそ、その真価が発揮される。実際、生理用品事情のよくない国や地域で、月経カップを普及させるためのボランティア活動が行われている。

 とはいえ、空腹を満たすために売られてしまうのであれば、支給しても意味はないのだが。

 ところでアメリカでは昨年、月経カップよりさらに進化した「月経ディスク」なる生理用品が発売された(4)。アメリカではまったく新しい生理用品が開発されているのに、日本ではひたすら使い捨てナプキンの性能向上が図られているところが面白い。使い捨てナプキンの性能がよいがために、それ以外の生理用品があまり必要とされないのだろう。ナプキンに次ぐ第二の生理用品、タンポンでさえ、使用者は有経女性の1~2割と少ない。タンポン不人気の背景には、「挿入する生理用品」に対する拭いがたい抵抗感が見て取れ(これについては次回詳しく書きたい)、当然ながら月経カップもほとんど普及していない。

 いずれにしても、大多数の女性にとって生理が「負担」である以上、将来的にはまず先進国において、生理自体をなくしてしまう方向へ動いていくだろう。「昔の人はよくも毎月そんな面倒なものと付き合っていたね」と感心される日が来るかもしれない。ちなみにもっと大昔、女性が初経から閉経まで絶え間なく子どもを産んでいた時代には、やはり生理という「負担」「面倒」はほとんどなく、したがって生理用品も今ほど必要とはされていなかったのである。

 「経済と生理用品」「性意識(挿入に対するタブー意識など)と生理用品」「少子化と生理用品」等々、生理用品は社会を映す鏡なのである。

(1)http://www.asiapress.org/apn/author/north-korea/post-56415/
(2)http://www.asiapress.org/apn/author/north-korea/post-56415/2/
(3)https://wezz-y.com/archives/21209
(4)https://flexfits.com/

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

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生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ