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フェミニストにもクリスマスは来るの? クリスマスコンテンツあれこれ

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とんでもないクリスマスソング

 クリスマスソングにはずいぶん変なものがあります。

 たとえば1953年にアーサ・キットが歌ってヒットした「サンタ・ベイビー」は、性差別的クリスマスソングとしてよく例にあげられものです。若い女性が1年間、男の子たちとも遊ばず「イイ子」にしていたので、車とかヨットとかプラチナ鉱山の証書をよこせとサンタを誘惑するという歌で、マドンナやカイリー・ミノーグ、カリスタ・フロックハート(テレビドラマ『アリー・マクビール』でアリーとして歌いました)、グウェン・ステファニーもカバーしています。

 どの歌手もどう見ても所謂「イイ子」にしていたとは思えないアグレッシブな女性ばかりで、「アタシがキスを我慢した男の子たちのこと思い出してね」という歌詞のところでは「んなわけねーだろ!」とツッコミを入れるのが私の恒例なのですが、まあツッコミを入れながら楽しむことを想定した歌だとしても、色仕掛けで男からものをもらおうとする美女を描く内容は女性をバカにしていてイヤだと思う人がいるのはわかります。

 もっと悪名高いのは、1949年に映画『水着の女王』(ネプチューンの娘)で初めて歌われたデュエットソング「ベイビー、イッツ・コールド・アウトサイド」です。最近ではイディナ・メンゼルとマイケル・ブーブレがカバーしています。

 この歌の問題は歌詞にあります。寒いからここにいてくれと「狼」(だいたい男声)からしつこく誘惑される鼠(だいたい女声)は、はっきり何度も「ダメ」(“No”)と断ります。狼から飲み物をすすめられお酒を口にした鼠は「この飲み物、何が入ってるの?」(“What’s in this drink?”)とたずねます。現在の感覚では、男が女のお酒にデートレイプドラッグを入れたとしか思えない展開です。

 歌詞があまりにも怖いので(日本語版ウィキペディアにものっているくらい有名です)、2010年の『glee/グリー』で歌われた時はクリス・コルファー(カート役)とダレン・クリス(ブレイン役)による男声デュエットにするとか、2013年にレディ・ガガとジョゼフ・ゴードン=レヴィットがカバーした時は女声のガガを狼、男声のジョゼフを鼠にするとか、歌詞の暴力性に変化球を加えようとする解釈も行われています。

フェミニストにもクリスマスは来るの? クリスマスコンテンツあれこれの画像2

wikipediaより

 注意せねばならないのは、たぶんこの2曲は発表当初はそんなに性差別的ではなかったというか、女性を元気づける歌だった可能性があることです。「サンタ・ベイビー」を歌ったアーサ・キットはアフリカ系アメリカ人で、『バットマン』のキャットウーマン役を演じるなど、人種の壁を打ち破った先駆的なスターでした。人種差別が激しい時代には、黒人女性が強くてセクシーで自信と才能に満ちているというだけでスキャンダラスでした。そんなアーサが欲しいものを堂々と要求する歌を聴くのは、非白人の女性にとって楽しかったかもしれません。

 「ベイビー、イッツ・コールド・アウトサイド」も、発表された1940年代半ばにおいてアメリカ女性は婚前交渉が社会的に認められていなかったため、むしろ彼氏とお酒を飲んでゆっくり過ごしたいのに家族や人目が気になってできない女性の背中を押すような歌だったのだろうと言われています。現在では山口敬之事件慶應義塾大学広告学研究会事件のように女性に酒や薬を飲ませて性暴力をふるおうとする恐ろしい事件が注目を浴びていますが、1940年代にはそういう報道はそれほどありませんでした。芸術は時代の移り変わりによって解釈が変わるので、昔は問題なかったものが差別的に聞こえたり、気味悪く見えたりするのはしばしば起こります。時代背景を説明されても、こういう歌はイヤだ……と思うことは当然あるでしょう。

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