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働く母親の罪悪感 「できれば子供が成長してから就労」と望むのはなぜだろう

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Photo by zoghal from Flickr

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 母親が働くことの是非は、いまだにしばしば議論される。子供が小さいうちは一緒にいるべき、子供はお母さんと一緒にいたいはず、職場に迷惑がかかる、生活に困ってないならば贅沢……等々。まるで、母親の就労が迷惑行為に該当するかのような言い方をされることまである。4年前の8月、曽野綾子は「出産したらお辞めなさい」「産休制度は会社にしてみれば、本当に迷惑千万」と書き、2年前の6月に埼玉県所沢市の藤本正人市長は「子供は2歳までは『お母さんと一緒にいたい』と言うはずだ」と発言した。

  “母親の就労”は、“会社に迷惑”なうえ、“子供へのしわ寄せ”を余儀なくされるという見方がそこにあるわけだが、その価値観をベースに内面化している働く母親自身、子供に「ごめんね」と申し訳なさを抱きながら働くケースは少なくはないのだろう。私自身(2歳児を保育園に預けて働く身)、日々、感じないわけではない。なぜ、働くことに罪悪感を覚えてしまうのか。

 124日にジブラルタ生命が公表した「働く男女のお財布事情とホンネに関する調査201720歳~59歳の就業している男女2,000名を対象にインターネットリサーチで実施)の集計結果に、働く男女双方が「母親の就労」ことについてどう捉えているかが示されていた。

 たとえば、“女性の社会進出”についての項目。

 【女性ならでは、母親ならではの視点は仕事に活きると思う】に、「そう思う(=『非常にそう思う』と『ややそう思う』の合計)」と答えたのは、男性72.3%、女性57.8%でどちらも多数派であった。男性は、女性以上に「女性ならでは、母親ならではの視点」に期待を寄せている人が多いようである。

 また、【女性の社会進出には、男性の家庭進出が不可欠だと思う】に、「そう思う(計)」と答えたのは、男性75.6%、女性79.6%。(やや女性が男性を上回っているものの)男女とも8割近く。性別の偏りなく多くの回答者が、「女性の社会進出」と「男性の家庭進出」は切り離せないことを理解していることがわかる。

 しかしその一方で、【子どもが小さいときは、(男性)妻には家にいて欲しい/(女性)できることなら家にいてあげたい】という質問に「そう思う(計)」と答えた割合は、男性72.2%、女性82.4%。女性は男性以上に「子どもが小さいときは、できることなら家にいてあげたい」と思っている人が多いことが読み取れる。

 つまり、「女性ならでは、母親ならではの視点は仕事に活きる」はずだから出産後も女性が働くことは会社にとって意義深く、「女性の社会進出には、男性の家庭進出が不可欠だ」と理解しているが、それはあくまでも「子どもがある程度、成長してから」の話なのである。

選択の是非を論じないで

 かつて華やかな芸能界に身を置いていた女性が、出産を機にしばらく仕事を控えて「子育てに専念」することは、母親のあるべき姿だとして賞賛を浴びる。目立つ場所にいる人々であるから、それが理想的なロールモデルなのだという刷り込みは大きい。山口百恵さんはその筆頭だろう。最近だと、松浦亜弥さん(31)がそのロールモデルに当てはまる。「『娘優先したい』と歌手復帰を否定」と週刊誌が報じ、当該記事がネット上でもリリースされると、記事コメント欄にはひたすら賛辞が並んだ。松浦さんが取材に対し、仕事よりも娘を優先したいと答えたことを、「エライ」「素晴らしい」「純愛結婚だったし」「好感持てる」「素敵なママ」「本当のアイドル」「子供を大切にしている」等と感じ、褒め称える声はとても多い。

 それ自体はひとつの価値観で、松浦さんの選択も何ら問題を含まない、正当な権利だと思う。しかしそれのみが母親のあるべき姿であり、幼い子供を抱えながら就労することが母親として本来あってはならない姿だと見てしまうのは狭量だ。同じくコメント欄に寄せられている「子供を利用して稼ごうとする元アイドルのママタレよりよっぽど魅力的」「生活に困ってないんだから当然」といった声は、とても排他的である。反対に「専業主婦はよろしくない」と見下す向きも、同様だ。専業主婦と働く女性は対立する軸ではなく、それぞれ別の選択肢に過ぎない。

 前出ジブラルタ生命の調査で、回答者女性のうち8割が「子どもが小さいときは、できることなら家にいてあげたい」と思う背景には、根強い三歳児神話や「育児は家庭で」という思想、保育園など環境整備の不足とそうした社会福祉への信頼感の乏しさ、産前の労働が激務であり産後も同様のパフォーマンスをこなすことへの不安感、今の仕事を辞めてリセットしたいという感情、自分自身の「お母さんに家にいてほしかった」幼少期の記憶などなど、色々あるだろう。しかし8割はなかなか多い、というのが私の率直な感想だ。「子供のためにできるだけ家にいてあげたい」というよりも、「できるだけ家にいてあげなければ十分な愛着関係を築けず、子供がかわいそうなのではないか」という怯えが罪悪感につながるのではないか……と思うのだ。

 しかし本当に、密着していなければ十分な愛着関係を築けないのか。母親の就労が子どもにどのような影響を及ぼすかについて、調査・研究したデータはこれまでに色々と発表されているが、そのほとんどが「母親の就労が即、子どもに負の影響を与えることはない」という結果を示している。出産後の数年を母親がどう過ごすか――子育てに専念するか、それとも仕事復帰するか、優劣や是非を論じるのはナンセンスなことだ。どちらも選択する権利があり、どちらが正解か……たとえば子供が優れた人格に育つといった結果に結びつくかの因果関係は、そこにはない。人生の選択のひとつに過ぎないし、また必ずしも母親自身が積極的に望んだ選択とは限らない(自分自身の希望に反したライフスタイルを選ばざるを得ないケースも多々あるだろう)。

 折りしも労働力が不足の一途を辿る時代であり、母親が働くことの是非など問うても意味がない。母親だけでなく父親も、そして子供がいなくとも介護や看護・本人の病気療養など事情は様々ある。そうした個々のプライベートな事情を抱えながら働くことが困難であったり、「迷惑」と論じられる現状は、社会的な「子育て観」「仕事観」のアップデートが遅れているといえるのではないか。「母親の就労は当たり前」「個々の事情ありき」を前提とした議論を積極的に交わしていきたい。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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