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幸せそうな妊婦のイメージは想像図 「楽しくない」し不安で憂鬱なマタニティライフの実際

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Photo by Vanessa Porter from Flickr

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 第一子の出産を間近に控えているSEKAI NO OWARIsaoriこと藤崎彩織さん(31)が、『文學界201712月号』(文藝春秋)でのコラム連載「読書間奏文」(文春オンラインでも読める)で、マタニティライフについて綴っている。妊娠してからというもの「マタニティライフを楽しんでね」と頻繁に声をかけられるようになったというsaoriさんだが、その楽しみ方がわからず、幸せよりも不安や憂鬱のほうが上回るという。かつて妊娠中に同様の気持ちを抱いていた私は共感を覚えた。

『マタニティライフは、はっきり言って楽しくない。』
『どうしたらマタニティライフを楽しめるのかはまったく分からなかった。』
『妊娠生活はあっという間なんかではないのだ。妊婦にとって、流産や早産の不安を抱えながら過ごす一日は、本当に長い。そんな時間の一体どこを楽しんだら良いというのだろう?』
『体調を崩し、不安を抱えながら過ごす日々は、とてつもなく長い。この期間無しに子供が生まれてきてくれるならどんなに良いだろうと、正直なところ今でも思ってしまう。』

 そう、そうなのだ。マタニティライフは楽しくなんかないのだ。ふかふかのソファに座り、大きくなってゆくお腹をさすり、編み物などしてベビー用品をそろえ、優しい夫と温かいお茶を飲む“幸せ”そうな妊婦の光景。それはイメージでしかないのに、なぜかあまりに強烈だ。

 中には、とても満ち足りた気持ちで、未来への希望に思いを馳せ謳歌している女性もいるかもしれないが、そして経産婦ならまた違うだろうが、私もsaoriさん同様にありとあらゆる不安を持て余していた。

 妊娠判明の直前まで喫煙していた。産休・育休取得するつもりが退職せざるを得なくなった。部屋探しと引っ越し(正社員の身分があるうちに子供可の物件に引っ越すため)を急ぐ必要がある。こうした事情もあって、妊娠初期の精神衛生は最悪だった。つわりが軽かったのがせめてもの救いだったが、お腹が大きくなるにつれて陣痛や出産の痛みへの恐怖感も芽生えた。無事産まれればすぐ働かなくてはならないが、保育園に入れるかどうかも不安だった。

 何より、まだ無事に生まれたわけじゃない。直近の検診で経過は順調と言われたけど、とにかくまだ無事に生まれてはいないのだ。果たして本当に無事に生まれてくるのか、不安だった。流産、早産、死産や子の障害に対する怖れと、「みんな普通に生まれているのだし大丈夫」という思惑が入り乱れた。どうなるかわからない、見通しを立てられないことはやっぱり不安が強い。楽観的になれなかった。

 そんな心境で「ママの顔になってきた」等と声をかけられると、強い違和感を抱いた。妊娠中や出産後の女性に「ちゃんとママの顔してる」「お母さんの顔になってきたね」といった言葉がかけられることは少なくないらしく、私も何度かそのような言葉をかけられたことがあるが、一体どんな顔・表情を指すのだろうか。幸せそうに見えたのか、本当に私は内側の不安をきれいに隠して幸せそうな表情をしていたのか。それは声をかけた人の側にある、ママのイメージじゃないか。

 私はママであり保護者だけれど、母親だって皆ひとりひとり違う表情をしていて、同じ気持ちで生きてるわけじゃない。イメージではなく実在している「ママの顔」「お母さんの顔」は、穏やかな笑みを湛えて赤ちゃんに母乳を与えていたり、子供の話に優しそうに頷いたりといった、幸福の象徴のようなものばかりではない。なかなか泣き止まない赤ちゃんに手こずってモノに当たったり、子供の言動や態度にイラっとしたりする。私自身が子供だった頃の親、友達の親などを思い返してみても、余裕を持って穏やかな顔の時とあからさまにイライラして八つ当たり気味の時とがあった。実在のお母さんは人間なので、そんなものなのだ。

 妊娠も出産も育児も、基本的には人を不幸にするようなライフイベントではない。だから楽しめばいいのだけれど、しかし時間をかけて自分の体が内側から変化していき、産後は生活自体をガラッと変えることになる。変化に不安はつきもので、すんなり受け入れられる女性ばかりではないだろう。また、私は「子供を育てること」を人生の目標にしているわけでもないから「この子のために頑張る」なんて気持ちも湧かなかった。産後は産後で、責任・義務が増えたという実感は大いにあるが、私は私の人生を生きていて、「ママ」の人生をやってはいない。

 マタニティライフや子育てを「楽しくない」と言いづらい空気が漂っていることは、「ママと赤ちゃん」を描く様々なコンテンツが同種のイメージ――前述したような柔らかい幸せのイメージ――を持つことからも明らかだ。小出愛さんのいう「正しいお母さんのルール」は広く浸透していると思う。でもイメージと実際は違う。だから「私の場合はそんなステキなものではないです」と言いたいし、saoriさんが戸惑いや憂鬱をこうして書いたことは、たとえ大きな賛同を得られなくとも、「実は私も……」「自分が変なのかと……」という女性に小さな安心をもたらすだろう。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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