
メーガン・マークルinstagramより
11月末にイギリスのヘンリー王子がアメリカの女優メーガン・マークルとの婚約を発表し、英米ともに大騒ぎとなった。イギリスにとっては2011年のウィリアム王子とケイト妃の結婚に次ぐロイヤル・ウェディング、アメリカにとっては自国から「プリンセス」が出ることになったのだから当然だ。
しかし、イギリスのタブロイド新聞やSNSにはふたりが交際を始めた2016年の夏以降、メーガンへの差別的な記事や書き込みが繰り返された。この事態を憂えたヘンリー王子の要請により、同年11月にはイギリス王室が「メーガンへのハラスメント」を止めるよう、異例の公式声明を発することとなった。
メーガンが攻撃される理由は、「アメリカ人」「カトリック教徒」「離婚歴」「女優」とさまざまだ。イギリス人の中には王室に外国人を迎えることに反対し、かつ欧州人としてアメリカ人を見下す者もいる。加えて王室は伝統的にプロテスタントであり、2011年の規則改正まで王族はカトリック教徒との結婚を許されなかった。
そこに決定打として「人種」が加わる。メーガンは黒人の母親と白人の父親から生まれた「黒人」または「バイレイシャル」なのである。
イギリスにも黒人差別はあり、これまで白人の血統を維持してきたイギリス王室(※)が黒人を迎え入れることに大きな抵抗を感じるイギリス人が存在する。イギリス・メディアのパパラッチがロサンジェルスのメーガンの母親宅に不法侵入する事件すら起こったが、なぜ父親宅より母親宅を選んだのか。メーガンの母親が黒人だからである。
※18世紀のイギリス国王ジョージ三世の妻、シャーロット王妃は黒人の血を継いでいたとする説がある
【注】イギリスの黒人人口比はおよそ3%とアメリカの13%をはるかに下回る。イギリスでの黒人はまさに少数派、マイノリティなのである。また、イギリスとアメリカの黒人市民はバックグラウンドが異なる。アメリカの黒人の多くがアフリカからアメリカに連行された奴隷の子孫であるのに対し、イギリスの黒人の多数はウエスト・インディアン(ジャマイカなどカリブ海の西インド諸島系)だ。かつてイギリスはカリブ海諸島を植民地とし、そこでアフリカからの奴隷を使った。そうしてカリブ海諸島に定着した(させられた)アフリカからの奴隷の子孫が後にイギリスに移民として流入している。つまり、アメリカ黒人が「アフリカ→アメリカ」なのに対し、イギリス黒人は「アフリカ→カリブ海→イギリス」であり、両者は異なる文化を持つ。ただし、アメリカにもウエスト・インディアン、両国ともにアフリカ諸国から近年になってやってきた移民も存在する。