漫画家・鳥飼茜による『悪を制圧してスカッとしたい』世間への抵抗

【この記事のキーワード】

男性性=悪ではない。でも男性性のどこかの部分が、女性を傷つけることを忘れないで

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左から『先生の白い嘘(8)』(講談社)『ロマンス暴風域』(扶桑社)『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』(祥伝社)

——その階層が深すぎて、読み込むのがしんどいと感じてしまうこと、あるいは読者によって読み込まれないこともありそうですね。連載中の『ロマンス暴風域』には、風俗嬢の芹香ちゃんと、彼女に盲目的に恋する恋愛弱者・サトミンが出てきます。純朴そうに見える芹香ちゃんが実は小悪魔的にサトミンを翻弄している……色々な細部からそれは匂ってきて、女性ならすぐに気がつくところだけど、男性はいつまでも気づかない。しかもそれは読者も同じかもしれないという。

鳥飼 描いているときも、男性読者と女性読者で気づくタイミングがズレるようにしようとは思いましたね。

——これは男性に失礼なのかもしれませんが、男性の見ている世界ってもしかして解像度がかなり低いのでは?と感じてしまいました。

鳥飼 たしかに男の社会は解像度を低くしないと生きづらい。男性側もおそらく直感的にそれを察していて、物事をわざとラフに読み込んでいる感じがします。でもだからこそ色々な意味で寛容なんですよね。ちょっと腹立つことを言われても、すぐに気持ちを切り替えてなかったことにしてくれたりするから。

——私も男女の問題を考えていると、つい「男性性=暴力的で悪いもの、闘わなければならないもの」と思ってしまいがちなのですが、それだけでもないということですね。

鳥飼 そうですね。きっと男性性自体は決して悪いものではなくて、それこそ寛容さとか成し遂げる力とか、いいところもある。それは純粋にすごいと思うし、尊敬しています。だけど「男性性のどこかの部分が女の人を傷つける」っていうことには目を向けてほしい。読んだ人に少しでもそういうことを考えてもらえたら、描いている私も気が晴れるというか。

——逆に女性性が男の人を傷つけることもありますよね。個人的に男性から聞いて印象的だったのが「何でも許してくれる優しい彼女だったのに、別れ際になった途端『今まであなたのこういうところが嫌だったけどずっと我慢してた』と爆発して牙を剥いてきた。今までずっと騙されていたんだと思うと女性がすごく怖い」っていう話で……。

鳥飼 それが女性性なのかはわからないですけど、溜め込む人は多いですね。自分もそうなのでめちゃくちゃ共感します。でも私の場合、最後まで言えないんです。表現の場では活発に物申してるっていうイメージかもしれないですけど……。ギリギリになって言った人は偉いと思う。私は結局何が嫌だったのかって相手に伝えないで別れることが多いし。

——作風を見ると実生活でもズバッと言っていそうな印象を受けるので意外です。

鳥飼 言わない。だって怖いもん。私、思ったことを男の人にぺらぺら言ってた時期に、何回か手を出されてることがあるんです。本質的なことを言われて、口で返しようがなくなったときの男性の対応って、めちゃくちゃ怖いんですよ。そういうことを経験してしまっていると、余計言えないですね。

——それこそすごくバランスが悪いし、怖いですよね。「言ったらそうなるんじゃん」って思ってしまう。

鳥飼 男の人って体も大きいし、何を考えてるのか底知れないところがあるじゃないですか。暴力は振るわれないにしたって、不機嫌になられるのも怖い。

——不機嫌さを露わにする相手に怒るのではなくて、「この状況は自分のせいなんじゃ」と自分を責めてしまう女性も多そうだなと。

鳥飼 それはありますね、虐待を受けた子どもがどんなふうに育っていくかっていう統計を目にしたことがあるんですが、男の子の場合は他罰的になるのに対して、女の子は自罰的なりやすいらしいです。個人差は考慮しても、そういう違いはあると思いますね。私も夫と暮らしていたとき、不機嫌になられると「私が悪かったのかな、あれがダメだったのかな」って邪推が止まらなかった。育児ノイローゼだったのもあるけど、「もう殺されるんじゃないか、だったら先にやるしかない」みたいな感じで、家の中でポケットにカッターナイフを入れて過ごしていたくらい。「もしかしたら私殺しちゃうかもしれない」と思うのも怖かったですね。

——逆に「この核心をついたらこの人は折れて死んじゃうじゃないか」っていう人もいますよね。だから女の側は相手を傷つけたり逆上させたりしないように、黙っているしかない。

鳥飼 男の人って、そういう本質的なことをやりとりするっていうのが苦手なんだろうな。やっぱり社会的なものを期待されて生きているから、対社会ではすごく力を発揮するけど。一対一で他人と向き合ったり、個人としての自分と向き合ったりすることは、あんまり期待されてきていない。だからそういうことは女の方が考えてるのかな、とは思いますけどね。

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