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脚色される「女性犯罪者」たち 和歌山カレー事件、林眞須美の「放水シーン」

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『死刑判決は『シルエット・ロマンス』を聴きながら―林眞須美 家族との書簡集』(講談社)

 この年末、NHKのドキュメンタリー番組『事件の涙 Human Crossroads』とフジテレビの『報道スクープSP 激動!世紀の大事件V』が、「和歌山カレー事件」を取り上げた。以前書いたように、この事件については当初のヒ素鑑定の杜撰さが指摘されるなど、冤罪説が浮上し始めている。今回の放送は、こうした新事実を盛り込んだ内容なのだろうと勝手に思っていたら違った。

 NHKの番組は、林眞須美被告の30歳になる長男が「殺人犯の息子」として生きてきたこれまでをふり返りつつ、今後の生き方について考えるという内容だった。ネットで見る限り、同情的な反響が多数寄せられているようだ。親がしたことで子どもが差別されるのは間違っているので、当たり前である。そしていくら長男への同情を集めたところで、林眞須美被告に対する世間の視線は変わらない。とはいえ、そういう主旨の番組ではないので仕方ない。

 フジテレビの方は、事件当時の再現映像と長男の語りを織り交ぜた内容だった。長男は、眞須美被告の無実を信じ、支援活動にも積極的に参加しているのだが、なぜか番組冒頭、涙ながらに無実を訴える林眞須美被告の映像を見て、「泣いて済む問題じゃない」と発言するシーンが流れた。本心なのか編集なのか。

 番組では最後に(1)「林眞須美以外にヒ素を混入できた人物はいない」、(2)「カレー鍋のヒ素と眞須美周辺のヒ素が一致」、(3)「眞須美の髪の毛からヒ素を検出」という、検察の主張そのままのテロップが流れ、次の話題へと移った。こちらも以前書いたことだが、目撃証言は途中から変わっており、(1)に信憑性があるとはいえない。(2)(3)の鑑定の誤謬も指摘されている。

 これでは「林眞須美犯人説」のダメ押しである。

 メディアでは、報道陣にホースで水をまく眞須美被告の様子が繰り返し映され、今なお「毒婦」扱いだが、もちろんそれは彼女の一面にすぎない。

 眞須美被告との文通が可能だった期間(2005年の接見禁止解除後から2009年に死刑が確定するまで)に私が受け取った手紙と、月刊『創』誌上で公開された手紙から、世間では知られていない眞須美被告の言動を拾ってみたい。

 「拘置所はタダ(無料)の老人ホームよ~ん」。これは眞須美被告が4人の子どもたちに宛てた手紙の中の一文である。子どもたちに対してはいつも明るく気丈な母親でも、夫の健治氏には「疲れたわ。身も心もガタガタや」と本音を明かしていた。

 眞須美被告は当時、四六時中カメラとマイクで監視されている部屋に収監され、一挙手一投足、独り言からトイレまですべてがあらわにされていた。それが「タダの老人ホーム」なわけがない。

 子どもたちは両親の逮捕後、児童養護施設に入所した。自分の目の届かないところで成長することについて、眞須美被告は私への手紙にこう書いている。

とくに三女は4歳で離れたので、何とも言えない歯がゆさと苛立ちでいっぱいです。写真の表情がいつも寂しげですし、接見禁止が解かれて面会できるようになっても、着てる服を見たら、20年以上も前のようなもので、いつも胃にひしひしときました。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)、『「毒婦」 和歌山カレー事件20年目の真実』(ビジネス社)など。

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