トランプに撹乱されたアメリカの2017年 市民はクリスマス・スピリットを忘れていない

文=堂本かおる
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Photo by Jeffrey Zeldman from Flickr

 クリスマス・イヴの夕方、ニューヨークの街は駆け込みのクリスマス・ショッピングをする人々でにぎわっていた。本来クリスマスは25日に祝われるもの。24日はその準備に忙しい日となる。

 我が家はクリスチャンではなく、25日の朝に教会に出掛けることはしないが、午後は自宅に親戚や友人を招いて集うのが恒例だ。だがパーティに必要なものをいくつか買い忘れており、筆者はハーレムのメインストリートに出掛けた。あちこちのレストランの店頭に趣向を凝らしたクリスマス・ツリーが飾られ、イルミネーションも美しい。買い物客も忙しげだが、楽しそうでもある。ホリデー・シースンは1年でもっとも楽しい時期なのだ。

 商店街をたくさんの人が歩いている。筆者の目の前には小学校高学年くらいの女の子と、その父親らしき男性が歩いていた。ふたりがドーナツ屋の前を通り過ぎる際、物乞いの男性がドアマンを演じていた。客のためにドアを開け閉めしてチップを稼ぐのだ。父娘はドーナツ屋には立ち寄らなかったが、少女が “ドアマン” に「メリー・クリスマス」と言いながら白い封筒を渡した。物乞いの男性は訝しげな表情を見せながらも無言で封筒を受け取った。

 父娘はそのまま何事もなかったかのように歩き続けた。封筒の中身は分からない。あの物乞いの男性のためにあらかじめ用意していたとは思えないが、クリスマス・イヴの日に出会うであろう貧しい人たちに渡すべく持ち歩いていたのだろうか。もしくは少女が誰かからもらったクリスマス・プレゼントの現金かギフトカードが入っており、それを物乞いにそのまま渡したのだろうか。

 いずれにせよ、今年はアメリカにとって大変な1年だったが、それでも人々はクリスマス・スピリットを保っているのだ。クリスマスはキリスト教徒がイエス・キリストの誕生を祝う日だが、そこに由来して誰もが平和で暖かな気持ちとなり、今の自分のあり方に喜びを感じて感謝をしつつ、家族や友人との時間を楽しみ、他者にも暖かく接することをクリスマス・スピリットと呼ぶ。

トランプの大統領就任

 アメリカの2017年はドナルド・トランプに振り回された1年だった。前年11月の大統領選挙でトランプが得票数ではヒラリー・クリントンを下回ったものの、選挙人制度により当選を果たしてしまった。1月20日、首都ワシントンD.C.での大統領就任式は「ガラガラ」だったが、同じD.C.でアンチ・トランプの抗議デモが暴徒化し、200人以上の逮捕者が出た。その騒ぎの中、ホワイトハウスに戻ったトランプは念願だった「オバマケア撤廃」の大統領令に署名。ただし代替案もないままオバマケアを丸ごと撤廃することはできず、ごく一部を改変する案にすぎなかった。

 翌21日には全米はおろか、世界各国でトランプにアンチを唱える「ウィメンズ・マーチ」が繰り広げられ、推定400万人が参加。ピンクの猫耳帽はそのシンボルとなった。

 24日にトランプはオバマ政権が保留にしていたダコタ・アクセス・パイプライン施設にゴーサインを出した。パイプラインがネイティヴ・アメリカンの聖地を通るため、激しい反対運動が起きていた案件だった。

 27日には突如としてイスラム7カ国からの入国禁止の大統領令に署名し、米国内のみならず、世界中を混乱に陥れた。アメリカ在住の家族親戚に会うために、もしくは里帰りしていた祖国からアメリカに帰国するために機上にいた人々は到着空港で缶詰となった。各空港の入国審査官もまともな対応を指示されておらずに右往左往、一方でボランティアの移民弁護士たちが該当者救済のために空港に駆け付け、空港の外では急遽組織された反対デモが繰り広げられる大騒動となった。この事態を救ったのは連邦判事たちだった。トランプの大統領令を違憲として訴え、とりあえずは事態を収拾させた。

強者のための政治〜弱者は切り捨て

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