就任からわずか7日間でこれだけの騒動を生み出したトランプは以後、現在に至るまでほぼ同じペースで物議をかもす言動や政策を繰り返している。すべてをリスト化すると長大になり過ぎるが、主だったものだけでもDACA廃止(子供の時期に自分の意志ではなく違法滞在者として入国した若者たちの救済廃止+強制送還)、パリ協定離脱表明(地球温暖化の否定+企業ビジネス優先)、トランスジェンダーの米軍入隊禁止(軍側が実行せず、トランスジェンダー兵士はそのまま軍に在籍)、金正恩総書記との罵倒合戦、度重なるオバマケア廃止法案(いずれも否決、オバマケアは今も存続)、ヴァージニア州での白人至上主義者とカウンターによる騒乱についての「どっちもどっち」コメント、未成年に性的ハラスメントをおこなったと糾弾されている議員候補者の支援および#Metooムーブメントの無視(候補者は落選+トランプ自身が選挙中に複数の女性から性的ハラスメントをによって糾弾されている)、そして年末の大型減税(トランプ自身を含む富裕層に厚く、中間層に厳しい内容)などがある。
トランプが推し進める政策の多くは社会的弱者を傷付けるものだ。社会的弱者とは低所得者、人種的マイノリティ、宗教的マイノリティ、移民、難民、亡命者、女性、子供、性的マイノリティなど多岐にわたる。つまり、トランプは自分と同じ属性(高所得者・白人・アメリカ人・男性・異性愛者・キリスト教徒)以外を擁護する気はまったくないと言える。あらゆる属性の民を抱えるアメリカ合衆国の大統領がつとまらないことは明白だ。
政策と言動がアンチ・マイノリティであるため、当然、マイノリティ側やメディアからはトランプ批判が噴出する。するとトランプは罵詈雑言、有り体に言えば小学生の悪口レベルのツイートを早朝から連投、または公の場で口にする。
トランプは今もことあるごとにオバマ元大統領の名を出し、どの政策であれ、うまくいかないのは「オバマのせいだ」という。ヒラリー・クリントンのことも機会があるたびに「Crooked Hillary(不正直な、不正なヒラリー)」と呼び続けている。大統領選中はヒラリーを支援し、その後もトランプ批判を続けているエリザベス・ウォーレン上院議員には「ポカホンタス(※)」というあだ名を付けている。ウォーレン議員は白人だが、学生時代に「ネイティヴ・アメリカンの血が混じっている」と自己申告したことに由来する。
※ポカホンタス:17世紀に実在したネイティヴ・アメリカン女性。イギリスからの入植者と結婚したことで後世に名を残し、ディズニーの長編アニメ映画にもなっている
先日、トランプは第二次世界大戦で活躍した「コード・トーカー」をホワイトハウスに招いて謝辞を表すイベントをおこなった。コード・トーカーとは敵国に解読されないようネイティヴ・アメリカンの言葉をもとに作られた暗号による交信を担当した先住民兵士を指す。トランプは高齢のナヴァホ族の元兵士に向かって「議会にもいますけどね、ポカホンタスっていうのが」とジョークを飛ばした。トランプには他者への敬意が完全に欠落しているのである。
さらにトランプは他国の首脳のことも、戦争の危機も顧みずに罵倒する。北朝鮮の金正恩総書記を「ロケットマン」「チビ」と呼び、アジアと米国の緊張感を無責任に煽っている。
身内も攻撃、解雇
トランプは身内も攻撃する。
共和党のリーダーたちはトランプの政策を基本的には支持するが、トランプが望む法案を通せないこともある。するとトランプは噛み付くのである。ライアン下院議長のことは「勝ち方を知らない」「ボーイスカウト」、マコーネル上院院内総務については、オバマケア撤廃を実現できなかったとして「7年もかけて、失敗だ!」「撤廃と代替案のために仕事に戻れ!」
大統領が指名するホワイトハウス職員と内閣には通常では考えられない人選がなされている。入閣資格のない元軍人は法を変えて大臣とし、極右メディアのトップ(先日、訪日したスティーヴ・バノン)も招き入れた。娘、娘婿といった親族も法への抵触ギリギリの線を踏んでホワイトハウスの上級職員に取り立てている。
そうした顔ぶれの中には政治経験ゼロの者も多く、言動が非常に危うい。一方、幾人かは経験豊富な者がおり、双方は当然のように相入れず、衝突が起こる。こうした内部事情により政権発足から1年未満で10人近い上級スタッフが解雇、または辞職している。さらにオバマ政権時代に任命されていたFBIのコーミー長官もロシア疑惑問題捜査でトランプに不利を招くことから解任。やはりオバマ政権に任命された地方判事のうち黒人の多くが白人判事に入れ替えられた。
ごく最近ではオマロサ・マニゴールト大統領補佐官(コミュニケーション担当)が辞職を表明。実際にはトランプとのなんらかの直交渉のために、ホワイトハウスの大統領居住エリアに踏み込もうとしてシークレットサービスにつまみ出されたあげくの解雇だと報じられている。オマロサはトランプのリアリティ番組『アプレンティス』の出演者として人気を博し、「大統領選では黒人票の獲得に貢献した」と自ら主張している。だが、ホワイトハウスでの役割は不明瞭であり、かつ4月の自身の結婚式の際、大量の招待客をホワイトハウスの一般人立ち入り禁止エリアに連れ込み、記念撮影をおこなったことでも批判されていた。
また、ホワイトハウス報道官は連日、定例記者会見をおこなうが、トランプの非常識な言動についてジャーナリストたちから雨あられと浴びせられる質問を無理やりにはぐらかし、正当化する必要がある。初代報道官のスパイサーはこの任務を果たし切れずに度々感情的になり、「精神的にまいってる」と噂されたのち、就任半年で辞職した。
2018年:真のアメリカを取り戻す
クリスマス前、トランプは「メリー・クリスマス!」を意図的に連呼した。近年の「宗教の多様性を尊重して “クリスマス” と言わず、”ハッピー・ホリデーズ” と言おう」の流れにアンチを唱え、中絶問題、同性婚問題も含めてアメリカでは政策と密接に結びつくキリスト教の重要度を再定着させるためだ。クリスマス・イヴの夜には自身が所有するフロリダ州の高級リゾート、マールアゴーから以下のツイートをおこなっている。
「人々は再びメリー・クリスマスということに誇りを感じている。我々の大切にして美しいフレーズへの攻撃に対するアンチを率いたことを私は誇りに思う。メリー・クリスマス!!!!!」
トランプにクリスマス・スピリットはない。しかし前述の、ハーレムのストリートで見掛けた少女と父親のような人々がアメリカには無数にいる。アメリカはクリスマス・スピリットを失ってはいない。このスピリットは2018年にも受け継がれる。来年は中間選挙が控えている。2018年のアメリカは、真の意味でのアメリカを取り戻すための戦いの年になる。
(堂本かおる)
■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。
1 2