「うるさいLGBT」とは思われたくない。それでも学園祭の「ゲイバー」に声をあげる学生たち【第21回:トランス男子のフェミな日常】

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 「企画を潰すことや炎上させることは望んでいません。考えてもらうために声をあげました。黙っていたら、この企画が楽しめない自分のほうがおかしいんじゃないかと思ってしまうから……」

学園祭シーズンの終わった11月半ば。そう語り出したのは武蔵野美術大学の中にあるLGBTQサークル・MAU Stonewallの学生たちだった。同校の学園祭には約半世紀続いている「元祖ゲイバー」という企画がある。女性に扮した男子学生やOBたちが小屋の中で接客し、ときには男性客にキスしたり肌を露出したりして盛り上げる企画だ。

 同じような企画は他大学にもある。たとえば武蔵美と同じく長年の伝統があった筑波大学の「芸バー」は2015年秋、ネット炎上の末に学校側から企画中止を命じられている。筑波大での出来事が、武蔵美の企画者にもMAU Stonewallのメンバーにも影響を与えている。

「大々的にやるのはまずいから、今年からゲイバーはポスター貼らないで」

 学園祭を仕切る学生協議会はそう注文をつけた。一方でMAU Stonewallのメンバーは、 学内での学生全体の問題意識や話し合いぬきで企画がつぶされることにも怯えている。

「筑波大学のときには学校側が説明ぬきに企画を中止しました。その結果、なにが問題なのか分からない学生たちは、かえって反発を深めて、炎上とは無関係の学内LGBTサークルを犯人扱いしたりしたとも聞いています(前述の記事参照)。そうじゃない道を探りたかった」

 大学に入学して初めて学園祭の企画を耳にしたとき、本物のゲイバーがあるのかなと思って期待したこと。すぐにそれが愚かな勘違いだったことに気がついたこと。小屋の前にたむろした慣れないオネェ言葉を操るスタッフを見て足は止まり、中には入れなかったこと。「ゲイバー、マジ楽しかった」と話す友人や、同級生がスタッフ(ちなみに女子が選ばれる)をやっている話を聞いて、もはや気にする自分がおかしいんじゃないかと思えてくること。学園祭のみならず、日頃から繰り広げられるホモネタ。異性愛中心の会話たち……

 学内でLGBTとして生活することには「ゲイバー」のみならず、日ごろからの窮屈さややるせなさがあった。

 メンバーたちが企画者と話し合って見ると、分かり合えるかなと思える部分もあった。ホモネタや男性客への性的サービスはしたくなく「純粋に自分の理想の女の子になれる」という動機で参加している人もいれば、普段から女性の服装をしているメンバーもいた。LGBTをバカにしたくないと断言する者もいた。しかし、客からホモネタを求められればノリで応じてしまうし、話し合いを重ねることに面倒くささをにじませる者もいる。学生同士の話し合いというのは理想的ではあるが、実際には相当に疲れることだ。

「でも、声あげてよかったと思ったこともあったんですよ」

 MAU Stonewallのメンバーの表情がパッと明るくなったのは、学園祭のときに自分たちで出したブースの話だった。そのブースではメンバーらのアート作品などを展示していたのだが、感想ノートに「ゲイバーが嫌なのは自分だけじゃなかったのがわかってよかった」と書いてくれた学生がいたのだ。わかってくれる人と繋がれることがうれしかった。

「美術大学というモノを作る人たちの集団として、何も考えずにホモネタに飛びつくのではなく、エンターテインメントとして本当に面白いものができたらいいなと 理想では思います。来年の学園祭まで1年間、どこまで話し合えるのか」

 そう語るMAU Stonewallのメンバーたちは疲弊していたけれど、限りなく真摯だった。上からの押し付けでも、外からの決めつけでもない話し合いのテーブルに座ってくれる人ばかりでもないかもしれない。それでも、そのようなテーブルを作ろうとしている学生たちの勇気を讃えたい、と思う。

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