集団強姦裁判、痴漢疑惑からの線路逃走、伊藤詩織、#metoo……2017年に起きた性暴力報道を振り返る

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『Black Box』(文藝春秋)

 2017年がもうすぐ終わろうとしている。みなさんにとって今年はどんな1年だっただろうか。米タイム誌は今月6日毎年恒例の「今年の人」に、過去に自身が受けた性暴力被害を告発した「沈黙を破った人たち(The Silence Breakers)」を選んだことを発表したが、日本もまた、セクシュアル・ハラスメントや性暴力に関する報道が多数流れた一年だったと思う。

複数の集団準強姦・強姦事件の裁判が開かれる

 例えば今年は、昨年明るみになった集団準強姦事件、集団強姦事件の判決が複数下されている。

 1月には、千葉大医学部の男たちが2016年9月に酒に酔った女性に性的暴行をしたとして、集団強姦罪などに問われた事件の初公判が千葉地裁であった。被告のひとりである山田兼輔は4月17日に下された懲役3年の実刑判決に対し即日控訴するものの、9月に東京高裁で控訴を棄却されている。吉元将也被告には5月29日に懲役4年の実刑判決が千葉地裁で下された。吉元被告は初公判では「(女性は)抵抗できない状態ではなかった。同意の上だと思っていた」と無罪を主張。その後、「同意はなかった」ことを認めるも、山田被告との共謀はなく単独の準強姦と主張していた。刑が重すぎるとして執行猶予を求めていた吉元被告も、東京高裁から控訴を棄却されている。

 6月には、酩酊状態の女性に性的暴行を加えたとして、ともに東邦大学医学部を卒業した医師と元勤務医、同大医学部の学生の男3人が集団準強姦などの疑いで逮捕された。この事件については翌月7月6日に不起訴処分となっているが理由は明らかにされていない。この事件の男たち3人のうち上西崇被告は別の女性への強姦事件でも起訴されており懲役5年に、松岡芳春被告は無罪となっている。裁判長は無罪とした理由を、被害者が相当強い酩酊状態だったことなどから「(相手を)特定しうる確たる記憶はなかった」ためとしている。

 11月28日には昨年9月の報道で明るみになった慶応大生6人による集団準強姦の容疑について、いずれも不起訴処分となった。地検は処分理由を明らかにしていない。

春先に集中した痴漢疑惑をかけられた男性が線路に逃走する事件報道

 春には痴漢疑惑をかけられた人が線路に逃走するという事件が続々と報道された。

 一連の報道のきっかけとなったのは、3月13日の御茶ノ水駅での事件だ。この事件では、ホームで女性から痴漢を指摘された男が線路に飛び降り、秋葉原方向へ逃走した。翌日14日にも痴漢を指摘され池袋駅で女性と共に降車した男が、突然女性の肩を突き飛ばし線路に飛び降り逃走するという事件があった。当時、テレビで何度も放送されていた線路上を走る男の映像を覚えているのではないだろうか。中には逃走後、電車にはねられ死亡してしまったケースもある。

 この時期、かなり頻繁に同様の事件が起こっている。ざっと調べた限りでも4月から5月頭にかけて、5つもあった。

痴漢疑われ?男が線路に飛び降り逃走 JR板橋駅
痴漢疑われた男、線路を逃走 JR両国駅、電車ストップ
痴漢とがめられた男、線路を逃走 JR埼京線新宿駅
痴漢容疑の男、コート脱ぎ捨て線路を逃走 JR板橋駅
痴漢疑われた男、また駅から線路に逃走 東京

 これらの事件を受けて、痴漢冤罪についての話題が多くの番組で取り上げられるようになり、「痴漢冤罪ヘルプコール」付きの弁護士費用保険への加入者も急増したのだという。

 痴漢報道は、被害よりも冤罪ばかりにスポットライトが当たってしまうことが多い。

 痴漢の被害を軽視し、「ちょっと触られるだけのこと」だし「減るもんじゃない」。それに比べれば、痴漢冤罪は1人の人間の人生が終わってしまう大ごとだ!そんな風潮が蔓延してしまっているのではないだろうか。ときには「本当に痴漢にあったのかすら怪しい」と言われることもある。

 しかし、電車の中で突然見ず知らずの人に背後から自身の体を服の上から、ときには下着の中にまで手をいれられて触られる、撫で回される。相手は何を持っているか分からない、声をあげたら何をされるかもわからない。その恐怖と心にうけるダメージは「ちょっと触られるだけのこと」と他者が矮小化してよいものではない。

 また、もし本当に冤罪が多発していたとしても、それは警察の捜査や司法のあり方にこそ問題があるのであって、痴漢被害を軽視する口実にはならないはずだ。社会制度の不備について議論することもなく痴漢冤罪にばかりフォーカスを当て、痴漢の被害を訴えることが難しくなる雰囲気を作ってしまうのは、痴漢という性暴力を助長する危険なことなのではないだろうか。冤罪は絶対に起こってはいけないことだ。同じように痴漢という性暴力も起こってはいけない。

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