セクハラは男性の問題である。立場上の優位性ありきの関係を「プライベートの恋愛」と誤解する人たち

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先生、よろしくお願いします!

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男性性にまつわる研究をされている様々な先生に教えを乞いながら、我々男子の課題や問題点について自己省察を交えて考えていく当連載。4人目の先生としてお招きしたのは、長年セクハラ問題の解決に取り組み、加害者の実態に迫った『壊れる男たち─セクハラはなぜ繰り返されるのか─』(岩波新書)などの著書もある「職場のハラスメント研究所」所長の金子雅臣さんです。

セクハラ加害者である広告会社の男性上司の言い分

清田代表(以下、清田) セクハラ被害を経験した女性たちが次々と声をあげる「#MeToo」キャンペーンが世界的なムーブメントとなり、日本でも、レイプ被害の体験を著書『Black Box』につづったジャーナリストの伊藤詩織さんや、電通時代の先輩社員からハラスメントを受けていた作家のはあちゅうさんによる告発が大きな話題となり、現在ネットを中心に様々な議論を呼んでいます。

金子雅臣(以下、金子) ものすごいことになっていますね。

清田 これだけ「セクハラ」という言葉が広く社会に浸透している(意味や定義が正しく共有されているかは別として)にも関わらず、いまだにセクハラ被害はなくなりません。実際に桃山商事でも、会社の上司や大学の指導教官との関係に悩む女性が相談にやって来て、よくよく話を聞いてみると「それって恋愛相談というよりセクハラ被害では……?」と思わざるを得ないケースが過去に何度もありました。

金子 わかります。男性のほうは“男女問題”の一種だと認識していて、被害者女性もそう思わされてしまっているけど、実態は典型的なセクハラ問題だった、というのは本当によくある話です。

清田 金子先生は長年、東京都の職員として、また「職場のハラスメント研究所」所長として、様々なセクハラ相談に携わられてきました。著書『壊れる男たち』には、これまで接してきた加害者男性たちのリアルな姿が描かれています。まったく自覚のない男、権力を使って性的関係を迫る男、めちゃくちゃな理屈で自己を正当化しようとする男など、本当に唖然とする事例ばかりですが、その一方で、もしかしたら同じ男性である自分の中にも似たような部分があるかも……とも考えさせられる恐ろしい本でした。

金子 この本で紹介しているのは、決して異常で特殊な男性の話ではありません。彼らはごく一般的な社会人で、どこにでもいる普通の男性たちです。だからこれは、我々男性にとって遠い世界の出来事ではないと思っています。

清田 例えば著書には、広告会社に勤務する22歳の女性社員にセクハラで訴えられた男性部長(43歳)の事例が紹介されています。ある日部長は、仕事を終えてオフィスを出た女性社員をわざわざ車で追いかけ、「仕事のことで相談がある」と言って無理やり食事に連れ出す。そして帰り道に人気のない山中へと向かい、わき道に車を止め、女性社員に無理やり性的関係を迫った……という話でした。

金子 彼は嫌がる女性を強引に押さえつけ、胸や下半身にまで手を伸ばしている。しかもこの男は妻子持ちだったんですよ。

清田 完全な性暴力だと思うんですが……衝撃だったのは、女性から訴えられたというのに、部長は「初めからデートに誘った」「成り行きでそういう雰囲気になった」「結局は何もしなかったのだから何が問題なのか」という驚くべき認識を持っていたことで。

金子 私も最初に話を聞いたときは唖然としました。ただ、これはある意味、セクハラ加害者の典型的な認識パターンとも言える。つまり、仕事ではなくプライベートの領域で起きたことだと考えていて、そこに存在する“権力構造”には無自覚で、女性が感じた身体的恐怖をまったく想像せず、最後までしなかった自分を“理性的”だとすら考えている──。こういう男性が本当に多いんです。

清田 この部長も実際、金子先生の質問に対して「あくまで個人的な誘いだった」「彼女は断ることもできたはず」「娘のような気持ちだったからあそこで止めた」などと答えていますもんね……。

金子 女性としては“部長”から言われた“仕事”の話だったから断れず食事に応じただけなのに、部長側はそれを「デートの誘いに乗ってくれた」と捉えていた。そこに職業上の立場が絡んでいたとはまるで認識していない。さらに、彼女が車に乗ったことを「ある程度の合意のサイン」と受け取っていて、「その気にさせたのは向こう」と、女性側にも問題があったとすら言いたげでした。

清田 めちゃくちゃな認識ですが、部長は本当にそう思い込んでいたんでしょうね。

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