社会

はあちゅう童貞いじりを考える。「童貞」への愛もdisりも揶揄も、男性に一面的な「男らしさ」を押し付けていない?

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童貞いじりの何が問題か

 はあちゅう氏の対応にはいくつもの問題点がある。

 まず謝罪文についてだが、先に引用した箇所に「童貞=社会的弱者という言葉のニュアンスがあること、また、そのように受け止めてしまう人が多い」とある。他にも「女性である私が男性にとって深いコンプレックスになりうる『童貞』を軽々しくネタにすることが表現の自由や感受性・価値観の違いとは受け止められない方がいることに気づかされました」という記述もあった。このような「問題は受け取る側にある」とする謝罪文は、批判を受けた企業に頻出するものとして、これまでもwezzyで批判を行ってきた。

 さらに、謝罪を公開数日後に撤回したこと。はあちゅう氏はその際、「とりあえず謝って済まそうみたいな心境だった」と書いている。告発の無効化を目的とした「童貞いじり」批判が少なからずあった以上、自分の証言と過去の言動によって、同じように声を上げた人たちに迷惑をかけてしまうと懸念し、十分に考える時間も余裕もないまま、「とりあえず謝罪」という選択をとってしまったところがあったのかもしれない。そのため、はあちゅう氏を過剰に批判することは避けたいが、とはいえブロガー・作家という言葉を扱う職業の人間であればすべきでない軽率な行動であった。

 そして本題の「童貞いじり」問題だ。

 「童貞」という言葉は「男らしさ」に強く紐付いた言葉だ。「童貞」であることは「男として劣ったもの」とされ、揶揄や嘲笑の対象になりがちだ。「まだ童貞なんだ(笑)」「だから童貞なんだよ」と、ネガティブな言葉として「童貞」が使われることは多い。

 「童貞」は女性との性体験を経験したことがない男性を指す。これを嘲笑することの前提には、「異性愛中心主義」があるのだろう。男性だからといって性的指向が女性に向いているとは限らない。同性愛者の男性もいれば、性的な関心をまったく持たない男性もいる。性体験のない男性を「童貞」嘲笑することは、「男なら女が好きで、セックスがしたいのが当たり前」と考えているということだ。

 「男らしさ」を体現するために、男性が女性との性体験に執着し、時に体験人数を競い合ったり、「◯とセックスした」と自慢げに語るとき、女性は「男らしさ」のためのモノとして扱われている。「童貞いじり」によって、「童貞」であることに焦りを覚えた男性が、こうした価値観を内面化することは、誰にとっても望ましいものではない。

 「童貞いじり」の害についてピンとこない人は、「童貞」といじられ続けた男性の切実な声が取り上げられている、弁護士ドットコムの「『童貞』といじられ続けた広告代理店の男性 『僕も #MeToo と声を上げてもよいでしょうか?」という記事を参照してほしい。

 なお、はあちゅう氏は、「特定の誰かを童貞として笑ったわけではなく、童貞『的』なものについて語っていた」ともツイートしていた。

 「童貞」には、「女性と性体験したことのない男性」という意味以外にも、「童貞性」とでも言えるような、別のニュアンスが込められている言葉でもある。「童貞性」を簡単にまとめれば、モテないことにコンプレックスを持っていたり、異性とのコミュニケーションが不器用だったりする、「マッチョな男らしさ」とは対極の性質とでもいえるだろう。そして、事実としての「童貞」でなくとも、「童貞」期間が長かったがゆえに(あるいはそうでなくとも)、その後も「童貞性」を持ち続けているとされる人や自称する人がいる。はあちゅう氏が自身の中に「童貞を飼っている」と言っているのも、こうした「童貞性」がある、ということなのだろう。

 「童貞性」は、マッチョな男性ではない男性像などの意味で使われ、嘲笑の対象とされた「童貞」の価値観を転換し、ポジティブなものとして取り上げられることもままある。保守的でマッチョな「男らしさ」ではなく、優しさや思いありのある童貞性のもつ男性こそが、いいのだ、と。はあちゅう氏の「童貞いじり」もそうした意図があったのかもしれない。

 だがはあちゅう氏の「童貞いじり」は、「童貞性」が本来、マッチョな男らしさと紐付けられ、「童貞」とからかわれた経験のある男性がいることを踏まえているとは到底思えないものだ。たとえ「童貞性」をポジティブなものと捉えていたとしても、「童貞」に切実に悩まされてきた人間が「童貞が『html…エッチtmlってなんかエロいです』と言った時、私は、童貞というのは救う方法のない病気なのだと悟った。すごいねほんとにすごいね」「『ねえねえ童貞ってなんで童貞なの?』( ´ ▽ ` )ノ」といったツイートをみたとき、何を思うだろう。

 もうひとつ、誰が「童貞」を語るかという問題もある。ポジティブに「童貞」を語り合う男性がいたとしても、あるいは「童貞」を自虐ネタに使う男性がいたとしても、そのことは、誰もが「童貞いじり」をしてもいい、ということにはならない。「童貞」が嘲笑されてきたことに変わりはないし、自虐として笑いのネタにしなければならないほどのプレッシャーを感じてきたということでもあるからだ。「童貞」という言葉を、別の言葉に言い換えてみると想像しやすいと思う。

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