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海猫沢めろんインタビュー ホストが語る「愛」は、子育てには通用しない――ホストのイクメン小説『キッズファイヤー・ドットコム』

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保育園に入れないってことは「働けない」ってこと

――でも、さっきの借金抱えた妊婦じゃないですけど、出産や子育てに対する国のお金って足りていないんですよね。

海猫沢 単純に都市部は保育園が足りないんですよ。単純な話、子供生まれるじゃないですか。でも貧乏だったら仕事しなくちゃいけない。そこで保育園に入れたら楽なんですよ。でも、まず入れない。そのことにみんなビビるんですよ。そこでみんなはじめて気づくんですよ。「あれ、保育園に入れないってことは働けないってことだから、これどうするの!?」って。

――働けないとお金がない、お金がないと死、ですもんね。

海猫沢 どうしようもないじゃんって、いきなりゲームオーバーになるんですよ。でも、保育園に入る裏ワザもない。入れないものは入れないんです。引っ越しを検討したりしなくちゃいけないんですよ。僕も東京都在住なので、しばらくは入れなかったです。区をまたいだところにある、私立みたいな認可園に入ることができたんですが、毎日満員電車に子供を抱えて乗っていました。あれで子供が死んでいたら、世界的ニュースになっていましたよ。

――そこまで入れないと聞くと、「日本死ね」って言いたくなりますよね。

海猫沢 入れないんだったら、ほかの制度をなんとかしてほしいですよね。自分が住んでいる地域は、子育て訪問(※シッターのようなもの)があるんですよ。でも料金が高い。そんでもって「なんだか怖い」らしいです。都内に住んでいる友人が利用していたんですが、帰ってくるとシッターがテレビを見た形跡があったり、風邪をひいているから外に出さないでって言ったのに、外に出た形跡があったり……。たまたま旦那が偶然早く帰ってきた時には、その人が部屋でお菓子食べながらテレビ見ていたこともあったらしく。途中で利用するのをやめたって聞きました。

――今、お子様は何歳ですか?

海猫沢 来年小学校の歳ですね。もういっぱしの口を利きますよ。たまに本当にむかつきます。外出先で僕が「トイレ行ってくるわ」って言って、トイレから戻ると息子の機嫌がすごく悪くなっていて。「なんか言うことないの」って言われて。意味がわからない! 「どうしたの」って聞くと、「待たせてごめん、とかあるじゃん」って言われました。おまえはめんどくさい彼女かよ!っていう……。

――子育てって、なにが起こるが本当にわからないんですね。

海猫沢 本当に千差万別で、「子育ては全然楽でしたよ、楽しかったですよ」って言う人いますし。そういえば、この間“クソリプ”が飛んできたんですよ。「現代ビジネス」の記事で、年収の高い夫婦は認可園の審査からはじかれる、と書いたのですが、「間違っています!」「うちは世帯年収2000万ですが、保育園に入れました!」ってリプが来て。その人いわく、「夫が『税金をいっぱい払っているから当たり前だ』って言っていました」って。でも待機児童がいる地区で世帯年収2000万の家庭が認可園に入れるってそれなんか裏技使ってるだろっていう。

――そういう反応があったんですね……。

海猫沢 みんな見ている世界が違うんですよ。記事では「男が出産前に買うべき三種の神器SSD」として、洗濯乾燥機・食器洗い機・電動自転車の3つを挙げたんですが、「ほかの2ついらないけど、電動自転車は必須」「電動自転車はいらないけど、これが必要」だとか、全員言っていることが違うんですよ。みんな自分が見ていること、経験したことでしか言わない。

「愛がない家庭に育った」か「貧しくても愛があった」かしかない

――ホストのこと、子育ての経験についておうかがいしましたが、本書で海猫沢先生が伝えたかったことってなんですか?

海猫沢 伝えたい、とかではないんですよ。みんなが常識だと思っていることは、全然常識ではなくて、それで、ショックを受ける、世界が変わる、みたいなことを体験してほしいんです。

さまざまな育児本を読むと、みんな愛が好きで、愛とかそういうことしか言っていない。でも、それはどういうことなのか、僕も考えたい。『キッズファイヤー・ドットコム』を読むと、きっとそういう体験が出来るんじゃないかなって気がします。自分が言っている「愛」というのが、全然愛について考えてなかったっていう。

僕の周りのヤンキーというか、グレている人たちって家庭環境が悪いことが多い。「愛がない家庭に育った」か、「貧しくても愛があった」の二択なんですよ。どちらにせよ愛情がコンプレックスを作り出してるんだけど、どっちもすごく曖昧な幻想なんですよ。

――愛うんぬんで語られてしまうと、なんだか嘘くささもありますしね。

海猫沢 ホストが語る愛って「嘘」じゃないですか。

――金です。

海猫沢 でも、心の中でどう思ってようが、字面で読むと一緒。みんな「愛」って言っているんですよ。でも、赤ちゃんの場合は「愛」って言っても通じない。だからホストの立場からしたら、逆のことをしないといけない。いつもやっていることと。

――いつもやっていることと逆のことですか。

海猫沢 ホストは口先だけで「愛」って言って信じ込ませれば、なんとかなるんですよ。何もやらなくてもいい。でも赤ちゃんは「愛」とか言っても、やらないと何も起こらないんですよ。愛を語る前にいいからやれと。

――ファンタジーだとわかっていても、お金を貢がせるホストが、子育てのためにお金を集めるってのもなんか……元ホス狂いから見ると、都合がいい奴らだなとも感じました。

海猫沢 基本的に神威たちは悪だと思いますよ。単なるいい人ではない。でも読者によっては「キャラクターみんないい人で、愛に溢れていて……」って言う。それも間違いではないんですよ。ホストクラブとかで騙された経験がある人からすると「騙されんな!」って言いたくなるでしょうけど(笑)。

――私は子育て未経験者なので、この本を通じて「子育てってやっぱりヤバイんだな」とも感じました。これから子育てを経験する人たちこそ、読むべき一冊なのかもしれません。先生が「終わりなきデスゲーム」と称した「子育て」にはどう立ち向かっていけばいいのでしょうか。

海猫沢 まず最初に、「とりあえず、なんとかなる」ということは言っておきたいです。本当になんとかしようと思うと選択肢はいくつか必ずある。問題はその後です。“なんとかなる”の選択肢から何を選ぶかです。

――そのポジティブさをこの本から学べると。

海猫沢 そう、大変だけどなんとかなるし、メディアで言っているほど、大変じゃないこともある。だから、「確かめろ、自分の目で」って感じですね。この本を読むことでそれは少し体験できます。この本を読んだ育児戦士は結構強いと思いますよ。

(撮影/荻窪番長)

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