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そろそろ、「少女小説」について語り始めよう/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー

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2000年頃から、少女小説が「少女の読み物」でなくなってくるワケ

小池 少女小説ブーム以降の、少女小説の流れについて軽く振り返りたいです。ブームがあったのが、80年代から90年に入ったところくらい。たしかに90年台後半くらいから、コバルト文庫もティーンズハート文庫も、だんだん存在感がなくなっていったような記憶があります。

嵯峨 そうですね。2000年前後が、少女小説にとってはひとつの転換点になっていると思います。

小池 どういうふうに転換したんでしょうか。

嵯峨 若年向けの読み物が多様化したことによって、既存の少女小説レーベルに、新規読者があまり入ってこなくなりました。つまり、「若い女の子ならコバルト・ティーンズハート」という図式が崩れたんですね。

小池 なるほど、女の子たちが違うものを読むようになった。

嵯峨 90年代末から、電撃文庫をはじめとするライトノベルレーベルが興隆し、男性だけでなく女性の人気も高まったこと。また2000年代半ばにケータイ小説ブームがあったこと。この二つは大きかったですね。

小池 わかります。私は2000年に中学一年生だったんですが、その年に電撃文庫から『キノの旅』(時雨沢恵一)が出たんですよ。で、翌年2001年に『Missing』(甲田学人)。私の周りの女子が読んでいたものを思い出すと、まずそのあたりが浮かびます。

嵯峨 全国的に見てもそうだったんじゃないかと思いますよ。私はこの本を書くために、毎日新聞が主催している「学校読書調査」という調査の資料を全て読んだんですね。小学校四年生から高校三年生まで、学年別男女で人気の書籍を集計するという資料です。これを見ると『キノの旅』は、男女ともにコンスタントにランクインしています。

小池 やっぱりそうなんですか。じゃあやっぱりこの時期に、コバルトやティーンズハートは「女子の定番」ではなくなってくるわけですね。

嵯峨 この時期は「ハリーポッター」シリーズの人気もありましたしね。あと、これは小池さんにぜひお話ししようと思っていたんですけれど、ケータイ小説ブームの時期の資料を見るとすごいですよ。ケータイ小説のランクイン率が。

小池 おお、そうなんですか。

嵯峨 20032005年の間に読書調査で見るのは、『Deep love』(2003)をはじめとするYoshi作品です。2004年にはすでに、ケータイ小説が女子の間で完全に定着していることがうかがえます。ランキング中のYoshi作品が、中学2年女子は4冊、中学3年女子は3冊、高校12年女子は5冊、高校3年女子は2冊。

小池 Yoshi一人でランクインしまくりですねえ……。

嵯峨 そして2007年は、中学12年、高校13年女子のランキング全てで『恋空』が1位、『赤い糸』が2位。中学3年女子だけこの順位が入れ替わります。

小池 うーむ、なんとなく体感としてはありましたけど、本当に圧倒的人気だったんですね。90年代以降生まれの女性にとっては、コバルト文庫より、ケータイ小説の方が少女小説としての存在感は大きかったのでしょうね。

少女が読む少女小説、20代以上が読む少女小説

小池 しかしややこしいですよね。リアルタイムの「少女」が読んでいるのは、もはやコバルト文庫やホワイトハート文庫など、既存の「少女小説」の系譜ではない。でも、電撃文庫やライト文芸のあたりを「少女小説」と呼ぶのにはやはり違和感があるわけで、「少女小説とは?」という疑問が出てきます。

嵯峨 そうですね。今、コバルト文庫とかホワイトハート文庫、ビーズログ文庫、ルルル文庫、アイリス文庫などいわゆる「少女小説」を一番読んでいるのは、3040代以上の女性です。もともとそれらを読んで大人になった人たちですね。20代の読者は若い方でしょう。少女小説って、基本的には読者年齢の高い読み物なんですよ。今の少女小説でよく見る政略結婚ものとか、お仕事を頑張る話というのはやっぱり大人の女性向けの設定ですよね(笑)。

小池 なかなか表立っては言われていないですけど、そうですよね。

嵯峨 コバルト文庫に関していえば、既存のファンを大切にし、彼女たちのニーズに応える方向性でブランディングしてきたレーベルだと言えます。一方で、ある時期からボカロ小説に力を入れたビーンズ文庫のように、意識的に若い読者の開拓を行い、一定の成果を上げているレーベルもあります。

小池 そのレーベルを読んでいた世代が、そのままレーベルファンとして残って、一緒に歳をとっていく。この現象が起きるのはどこも一緒だなあと思います。この間インタビューさせていただいたケータイ小説作家の映画館さんと、「魔法のiらんど」の編集者さんも「ケータイ小説のファンには、30代以上の女性もかなり多い」と仰っていました。

嵯峨 ただケータイ小説は、今でも10代の女の子の割合が多いんですよね。そこが既存の少女小説レーベルとの大きな違いだと思いますし、面白いです。今回、最近のケータイ小説を何冊か読んでみたんですよ。そうしたらやっぱりテイストの違いを感じたというか……。「ああ、これは10代の女の子が共感しやすいだろうな」と感じるところがいくつもありました。

小池 そうですね。ケータイ小説ってほとんどが投稿小説の書籍化ですから、サイトに10代の女の子がアクセスしている限り、彼女たちの民意というか、「私たちに必要なのはこの物語だ」という指向は世界観に反映され続けるのかなと思うんです。サイトランキングも、10代・20代・30代って分かれていますし。

少女小説について語る土壌をつくりたい

小池 お話をしていて改めて思いましたが、少女小説って、「10代の女の子が読むもの」をさすわけじゃないですね。今まさに少女である女性のための物語も、10年・20年前に少女だった人のための物語も、全部「少女小説」なんだなと。そして、これだけ広い世代の読者を抱えている少女小説の世界が、あまり批評の対象にならないというのはやっぱりよくないのではないか、という気がしました。

嵯峨 私が見てきたのは主にアカデミックの世界ですが、こちらも流行り廃りというのは激しくて、時期によってよく研究されるジャンルと、まったくされないジャンルがあるんです。ライトノベルも、ブームだったころはよく研究対象となりましたが、今は率直に言って下火です。今の学生で、「ラノベ研究をしたいです」と言う人はあまりいません。今、ポピュラーカルチャー研究の対象として人気があるのは、何といってもアイドルとアニメーションなので。

小池 うーん、90年代以降ブームになったことのない少女小説は、ますます研究対象からは外れますよね。

嵯峨 そうですね。私がこの本を出した時も、少女小説というジャンル自体が、レーベルを中心に見れば完全に縮小に向かっていたわけで……。でもだからこそ、この本を出す必要があるのではないか、とも思いました。歴史をまとめることで、それについて語れる土壌を作りたい。その作業こそが必要なのではないか、と。

小池 すごく貴重なお仕事だと思います。嵯峨さん以外にはできなかったと思うので。個人的にも、少女小説を読んでいる人、読み続ける人はけっこう多いんだからもっと注目しようよ、ということはもっと世間に知らしめたいですね。私だって、未だに小林深雪さんの追っかけをしてますから(笑)。

第二回:「20代以上が読む「姫嫁」もの、10代に刺さった『告白予行演習』」に続く

嵯峨景子(さが・けいこ)
1979年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化研究。現在明治学院大学非常勤講師、国際日本文化研究センター共同研究員。単著に『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社、2016)、共著に『動員のメディアミックス <創作する大衆>の戦時下・戦後』(思文閣出版、2017)など。

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小池未樹

ライター・漫画家。1987年生。大学卒業後、郷土史本編集、テレビ番組制作、金融会社勤務などを経て、2013年よりライター・編集者としての活動を開始。企画・構成に『百合のリアル』(著・牧村朝子)や『残念な政治家を選ばない技術—選挙リテラシー入門』(著・松田馨)、著書に『同居人の美少女がレズビアンだった件。』『家族が片づけられない』(井上能理子名義)などがある。最近猫が足りない。

twitter:@monokirk

サイト:http://mikipond.sub.jp

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