少女小説とケータイ小説の違い、10代の虚無感を映すケータイ小説文庫/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー

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『通学電車 君と僕の部屋 』(コバルト文庫)

『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社・2016)の著者で、社会学者の嵯峨景子さんに少女小説の「今」について聞くインタビュー第3弾。嵯峨さんによれば、2000年代半ばに大きなブームを巻き起こしたケータイ小説は、少女小説の近接ジャンルでもあるそうです。今となっては少女小説以上に語られる機会のないケータイ小説。しかし、ブームとともに成長した少女たちにとっての存在感は大人が思っている以上に大きいだろう、と指摘します。

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大人たちの知らない大ヒット少女小説――『通学電車』シリーズ

嵯峨 今回、小池さんとぜひケータイ小説の話をしてみたかったんですよ。『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』でも、ケータイ小説のことは近接するジャンルとしてとりあげましたが、あまり深くは語れなかったので。

小池 嬉しいです。ケータイ小説って、コバルト文庫のように「少女小説」と表立っては言われていないですけど、実質的には「少女」が主に読んでいる小説なんですよね。だから、少女小説としての言及も重要じゃないかと常々思っていました。

嵯峨 ケータイ小説が少女小説としても重要だというお話、同感ですね。リアルの少女たちの読書動向を追うデータとしては、今のところ読書調査くらいしかわかりやすいものがないんですけれど、それだけを見てもケータイ小説の存在感は大きいです。私たち大人が思っている以上に、若い人たちの間でしっかり読まれていると私も思います。

小池 大人は『Deep Love』(スターツ出版・2003)や『恋空』(同左・2006)くらいしか把握できていないことが多いですけど、実は他にも読まれているケータイ小説はたくさんありますしね。

嵯峨 あ、その話をしようと思って今回資料も準備してきたんですよ……。小池さん、集英社から展開されたケータイ小説の『通学電車』シリーズ(2010~)はご存知でしょうか。

小池 はい。高校生のベタな恋愛もので、すごく人気がありましたね。最近(201712月)、シリーズ最新刊が出ていて「まだ続いてたのか!」と驚きました。

嵯峨 これはもともと、ケータイ小説投稿サイト「野いちご」に連載されていた作品です。これが、「E★エブリスタ」の「Seventeenケータイ小説大賞」第一回グランプリを取ったことから、最初はコバルト文庫で出版されたんですね。でもそのあとに、集英社がピンキー文庫というケータイ小説レーベルを独自に作って、「通学」シリーズはそちらで本格的に展開される形となりました。実はこれが中高生にかなり読まれていて……。これ、20102012年の読書調査の結果です。

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2010~2012年の読書調査より(編集部作成)

小池 わ、すごい。わざわざありがとうございます。7811位……。たくさんランクインしていますね。

嵯峨 2015年にはシリーズで累計135万部を突破していますから、堂々たるヒット作ですよね。ケータイ小説ブームのあとだったせいか、どうも大人の世界での知名度は低いのですが。

小池 小説の表紙に松坂桃李くんみたいなイケメンモデル・俳優が起用されていたり、千葉雄大くん主演で映画化されたりと着実に若年層に刺さるように作られていましたけど、だからこそ大人の観測から漏れているんでしょうか。

嵯峨 そうかもしれません。映画が公開になった頃、2015年くらいからは逆に、読書調査では見かけなくなってしまうんですけど、2010年代初頭の人気は突出していました。展開としてうまかったと思うのは、「通学」シリーズの刊行に合わせて、集英社のティーンズ向けファッション雑誌「Seventeen」に、コミカライズを載せていたことですね。

小池 ああ、それは「わかってる!」って感じがしますね。ケータイ小説と親和性が高いのは、ファッション雑誌を読むような子たちだったわけですから。

嵯峨 この辺りの戦略に関して言えば、集英社はやはりうまいですよね。「通学」シリーズのような作品には、既存のコバルト文庫読者は食いつきません。だからここは、ターゲット層を完全に分けてマーケティングしたわけです。

小池 そして、その中で明確に「若年層向け」だった方が、大人の世界から見るとよけいわかりづらい、気づきにくいものになっていたと……。うーん、やっぱりここには分断がある気がします。

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