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少女小説とケータイ小説の違い、10代の虚無感を映すケータイ小説文庫/『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』著者・嵯峨景子インタビュー

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「不良ラブ」の金字塔『ワイルドビースト』

嵯峨 読書調査といえば……。2010年に、『ヤンキー彼氏と泣き虫彼女』(スターツ出版)という、やはり「野いちご」発の作品がランクインしているんですよ。

小池 きましたね、ケータイ小説の中で絶大な人気を誇る「不良ラブ」、ヤンキーもの。

嵯峨 これだけがポツンと、この時期に突然ランクインしてきたことがちょっと印象的で。ヤンキーものって、この頃から流行り始めたんでしょうかね?

小池 そうですね。2009年頃から、似たタイプのヤンキーものの投稿が一気に増えて、人気作が書籍化されるようになりました。特に流行ったのは、「少女が、周りに恐れられているヤンキー、あるいは暴走族のトップに溺愛され、さまざまな危険から守られる中で自分を取り戻していく」という筋書きです。『ヤンキー彼氏と泣き虫彼女』も、普通の女の子がヤンキーグループのリーダーに愛されて……という、まさにそのタイプのお話でしたね。

嵯峨 そのブームって、きっかけになる作品があったんでしょうか。

小池 ケータイ小説投稿サイトとしては最大手の「魔法のiらんど」に、『ワイルドビースト』(ユウ著)っていう人気作があったんですよ。2009年に書籍化されて、本編だけで8巻続くロングヒットになりました。暴走族の総長を「最強にして最凶の王子様」として確立させたのは多分これですね。投稿自体は2008年からで、連載初期からかなり人気があったんです。iらんどの編集者さんも「この作品から不良人気は加速した」と仰っていたので、その前から土壌は整っていたものの、ここがやはりターニングポイントだったのかなと。その後も、「魔法のiらんど」からは『暴走族に寵愛されたお姫様☆』(2010年書籍化)とか『Ocean Blue 運命のカレは最強暴走族』(2011年書籍化)、別サイトの「野いちご」からも『王子様は金髪ヤンキー!?〜My last lover〜』(2010年書籍化)、『極悪彼氏―俺様ヤンキーと最強の恋』(2012年書籍化)など、似たテイストの作品がたくさん書籍化されました。

嵯峨 ああ、『ワイルドビースト』は読みました。あと『桜龍』(アスキー・メディアワークス・2010)という女の子のヤンキーが活躍する話も。

小池 どう思われました?

嵯峨 なんというんでしょうね……ポップですよね。私たちが普通に思い浮かべる「不良」とは違うイメージで描かれている不良だなと。

小池 ケータイ小説界の暴走族は「HiGH & LOW」なので……。

嵯峨 ファンタジーである、ということですよね(笑)。

小池 そうですね(笑)。ケータイ小説ブームが盛り上がっている頃、つまり『赤い糸』(ゴマブックス・2007)くらいまでは、不良キャラというのは小説の中においても現実の「ワル」の影を負っていたんですよ。ドラッグを吸うとか、女性を強姦するとか。でも2008年頃から、それが一気にファンタジック方面に傾いて、「ハイロー」の世界が出現した。強くてカッコよくて常に戦っていて、でも頭も良くて本当の悪事は犯さないイケメン、という。これは、現実の暴走族の衰退とも連動した変化ではないでしょうか(※1)。実態の情報を知らないまま、まったくのイメージで不良を描けるようになったと

嵯峨 なるほど……。不良の描写で面白かったのが、顔立ちや雰囲気の描写自体はほとんどないのに、髪の毛の色だけはやたら明確に指定されているところですね。長くて銀髪とか、短くて赤髪とか。私はケータイ小説についてはまだ不勉強なので、「なんでそこだけ!?」とちょっと気になりました(笑)。

小池 わかります。小説文化というよりは漫画やアニメの影響を感じますよね。アニメって、キャラ分けをイメージカラーでする文化があるじゃないですか。髪とか洋服とか……。キャラクターというものをとらえるときの若い人の意識が、そこにフォーカスしているのかもしれません。

少女小説はハイクラスカルチャー?

嵯峨 それにしても、ケータイ小説の世界で不良というモチーフが特に好まれるのは、少女小説レーベルと比較したときに興味深く思える点です。

小池 あ、やっぱりそうですか。

嵯峨 女子文化全体を見ると、不良っぽいものへのあこがれはあちこちに散見されるというか、メジャーですよね。「女の子はワルい男に弱い」みたいな……。ただ、コバルト文庫みたいな少女小説レーベルではあまり見ないんですよ。響野夏菜さんなんかは、比較的不良的なカルチャーも書く人でしたが。不思議といえば不思議です。

小池 これは私の、単なる読者としての想像ですが……。80〜90年代の少女小説って、基本的にエリート主義っぽいところがありましたよね。こう、ちゃんと勉強して、いい大学に行ったり海外留学したりするのがカッコイイ、帰国子女だと更に箔がつく、というような。

嵯峨 コバルト文庫は、特に「優等生的」って言われることがあります。

小池 ヒーロー像も、その像に沿っている人が多かった印象があります。イケメンなのはもちろん、出自も良くて、エリートコースを歩んでいて、という。高度経済成長期のドリームを感じる男性像ですよね。藤本ひとみ作品などは特にそういうヒーローが多かった。そういう、社会のハイクラス層がヒーローであってほしいという時代の中で少女小説のブームは起こっていたので、その文化の継承が続いたのではと。

嵯峨 現時点で断定することはできないのですが、感覚としてはよくわかります。これはコバルトが作家の経歴をある時期までオープンにしていたことと関係があるかもしれませんが、書き手にも学歴の高い人が目立つように思います。

小池 そうなんですよね。桑原水菜さんは中央大学の史学科卒で……。

嵯峨 須賀しのぶさんが上智大学の史学科、久美沙織さんも同じ上智の哲学科、若木未生さんは早稲田大学です。もちろん学歴だけの話ではなく、比較的ハイクラスの感性が牽引していたカルチャーではあったかもしれません。

小池 一方ケータイ小説の場合、ヒロインが「地元でも有名なヤンキー高校」に通っていることがめずらしくないんです。『ヤンキー彼氏と泣き虫彼女』もそうですし。昔風のハイクラス的ドリームは、そもそも今の若年層には馴染みづらいものにもなりつつあるし、それに惹かれない人は昭和時代にも当然いたと思います。ケータイ小説には、その人達のドリームとかニーズを可視化させたという面もありそうだと考えています。

ケータイ小説の虚無感は、リアル10代とリンクする

嵯峨 それにしても今回、改めて最近のケータイ小説を読んでみて、ケータイ小説が若い人に読まれる理由がちょっとわかった気がしたんですよ。

小池 おお、どこでそう思われました?

嵯峨 『ワイルドビースト』のヒロインの虚無感というのか、あのドライな感じっていうんですかね。あれって、10代のときだったらすごく感情移入していただろうなって思いました。というかとっくに10代ではない今の自分にとっても、あの虚無感や孤独はどこか心地よいものでした。だから、よくある「内面描写がない」というようなケータイ小説への批判は、ちょっと違うんじゃないかと。

小池 わかります。内面描写がない……まあ、大人は「深みがない」っていう意味で「描写がない」と言うんですけど、まだ精神の深堀りができない状態の子からすると、むしろこっちの方が助かるというか、「自分と近い」という印象は持つんじゃないかと私も思います。ケータイ小説作品の感想を見ても共感の嵐ですし。

嵯峨 ええ。あの寂しさ、孤独感に共感する、という少女が多いのはまったく不思議でないです。ここには、彼女たちの内面世界とリンクするものがある気がします。

小池 ちょっとシラケてて、何も持ってなくて、ちょっとイジけているような。

嵯峨 ですね。これは、今の少女小説にはない要素でもあって。私はケータイ小説と少女小説と両方読んでいるので、その違いがよくわかって面白かったです。

小池 そして、そこがまさに、大人たちの眉をひそめさせるところでもある(笑)。そういう要素がバリバリ表に出てくること自体が、ケータイ小説がリアルの10代にしっかり読まれていることの証でもあるように思います。だから無条件で小説として素晴らしい、と言う気はさらさらないですけど。時々、大人から見ると意味不明な文章もありますし……。

嵯峨 倉庫に暴走族の下っ端が1500人集まるとか、そういう描写には私も笑いました(笑)。

小池 東京国際フォーラムかよ! って感じですよね(笑)。そういうツッコミどころは満載です。ただケータイ小説というのが、素人の投稿小説をコンテンツ化している以上、良くも悪くも「今この瞬間の少女のニーズ」を反映するジャンルであることはたしかだと思うんです。だから、ここを無視しちゃいけないのでは、ということは言っていきたいです。

1 警視庁の発表による暴走族の取り締まり結果を参照すると、集会・走行回数は2005年に4569回だったのが2009年には3572回へと減少、参加人員数にいたっては6903人から35247人へと半減している。警視庁HP:http://www.npa.go.jp

■第四回:「「女子ども向け」カルチャーは、なぜ大人たちをいらだたせるのか。」に続く

嵯峨景子(さが・けいこ)
1979年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化研究。現在明治学院大学非常勤講師、国際日本文化研究センター共同研究員。単著に『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』(彩流社、2016)、共著に『動員のメディアミックス <創作する大衆>の戦時下・戦後』(思文閣出版、2017)など。

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小池未樹

ライター・漫画家。1987年生。大学卒業後、郷土史本編集、テレビ番組制作、金融会社勤務などを経て、2013年よりライター・編集者としての活動を開始。企画・構成に『百合のリアル』(著・牧村朝子)や『残念な政治家を選ばない技術—選挙リテラシー入門』(著・松田馨)、著書に『同居人の美少女がレズビアンだった件。』『家族が片づけられない』(井上能理子名義)などがある。最近猫が足りない。

twitter:@monokirk

サイト:http://mikipond.sub.jp

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